解答編

 まず、注目すべきは鈴木さんが一度ブラジャーを着替えているという点です。

 ここで彼らの証言をまとめましょう。


 タケシ「登校中に鈴木さんの透けブラを見たけどピンクであった。隣にはヒラガもいた」

 ダイスケ「俺もうっかり二度ブラを見てしまったけど、オレンジと青色であった」

 アキラ「いつどこでかは言えないが、ブラは青色であった。ピンクは見ていない」

 ヒラガ「僕は登校中の透けブラは見えなかった。でも、その後に透けブラを見れたけど、ピンクではなかった」

 ヒロシ「僕は一限目の体育の時に透けブラを見たけど、青色ではなかった」


 また、ここに加えて鈴木さんが昼休みに一度着替えているという点を加味しましょう。

 つまり鈴木さんは登校→昼休み、昼休み→帰宅までに二つのブラを着用しています。


 タケシの証言どおりであった場合は

 ・鈴木さんは登校時はピンク→その後は不明

 となります。これに対して他のメンバーの証言の正誤は

 ダイスケ× アキラ◯ ヒラガは◯ ヒロシは◯となります。


 次いでダイスケの証言どおりであった場合

 ・鈴木さんの登校時はオレンジor青→着替えたあとはオレンジor青となります。

 証言の正誤は

 タケシ× アキラ◯ ヒラガ◯ ヒロシ◯


 アキラの証言どおりであった場合。

 ・鈴木さんはどこかのタイミングで青色のブラをつけています。

 証言の正誤は

 タケシ◯ ダイスケ◯ ヒラガ◯ ヒロシ◯


 ヒラガの証言どおりであった場合。

 ・鈴木さんがピンクではないブラジャーに着替えたと仮定して証言の正誤は

 タケシ◯ ダイスケ◯ アキラ◯ ヒロシ◯


 ヒロシの証言どおりであった場合。

 ・鈴木さんは昼休み前までは青色でないブラをしているので

 タケシ◯ ダイスケ× アキラ◯ ヒラガ◯


 以上からして×がついたのはタケシとダイスケの二名です。

 ですが、これだけでは犯人を断定することができません。


 では昼休みの証言です。まとめます。

 タケシ「俺はずっとヒロシと一緒にいたから、俺もヒロシも犯人ではない」

 ダイスケ「犯人はタケシ、ヒロシ、アキラの中にいるはずだ」

 ヒロシ「タケシは犯人じゃないです」

 アキラ「私から見えるところにタケシ、ヒロシ、ヒラガはずっといたので、犯人ではありませんね」

 ヒラガ「タケシ、ダイスケのどちらかが犯人」


 ここでは彼らが嘘をついているという仮定をし、矛盾があるか正誤を決めます。


 ・タケシが嘘をついている場合。

 ダイスケ◯ ヒロシ× アキラ× ヒラガ◯

 となります。


 ・ダイスケが嘘をついている場合。

 タケシ◯ ヒロシ◯ アキラ◯ ヒラガ◯

 となります。


 ・ヒロシが嘘をついている場合。

 タケシ× ダイスケ◯ アキラ× ヒラガ◯


 ・アキラが嘘をついている場合。

 タケシ× ダイスケ◯ ヒロシ× ヒラガ◯


 ・ヒラガが嘘をついている場合。

 タケシ◯ ダイスケ× タケシ◯ アキラ◯


 となります。

 つまり、矛盾をまったく生まなかったダイスケが犯人となります。

 納得できましたか? できませんか? なら、ストーリー仕立てにしましょう。


 早朝。傘をウッカリ忘れてしまった鈴木さんは土砂降りでずぶ濡れになります。

 ここにはタケシとヒラガは偶然にもいました。この時、タケシだけが鈴木さんの透けブラを見つけました。タケシはヒラガに教えることなく、心のファインダーで捉えて瞳のシャッターを切って心のシークレットフォルダに納めます。一方でヒラガは傘も差さずにタンクトップ一枚のおじいちゃんが散歩させるコーギーに、憐れみの視線を送っていました。


 そして一限目の体育。鈴木さんは体操着に着替えましたが、ブラは濡れており、そのせいで体操着の上から透けてしまいます。

 目撃したのはヒロシです。ヒロシはその現実味を帯びない光景に心臓が高鳴り、催してないのにトイレに駆け込みました。トイレから出たヒロシは、なぜか額に汗を浮かべながら成し遂げた顔をしていました。


 そして昼休み。

 鈴木さんは濡れた下着が嫌で、空き教室で着替えます。

 そんな光景を見てしまったのはダイスケです。

 ダイスケは空き教室で昼寝をしようと物影で寝転んでいると、なんと鈴木さんが入ってきて着替え出したではありませんか。

 ですが、さすがは鈴木さん。ワイシャツの下に着ていた体操着の中でブラを外し、新しいブラに交換します。

 だが、ダイスケを興奮させたのは『鈴木さんが目の前でブラジャーを交換している』というシチュエーションでした。ダイスケに女性との交際経験はありません。無造作に落ちたブラジャーの、その乳房を包んでいる裏側を見るというのは背徳感を刺激しました。

 ですが、これを他言するわけにはいきません。ダイスケは追い詰められたネズミのように息を殺し、存在を消しました。


 そして放課後。またしても雨が降りました。

 もうこうなってはどうなってもいいやと、鈴木さんは投げやりな気持ちで下校しました。

 そんな彼女を目撃したのは、アキラでした。雨の中を胸を張って帰る姿に目が釘付けでした。

 威風堂々とブラを透けさせて歩く鈴木さんは、まるで戦乙女ヴァルキリー。エロスに全振りした令和のジャンヌ・ダ・ルクだと、アキラは感心しました。

 その日、家に帰ったアキラは何度も鈴木さんの姿を思い出しており、ついには父の八海山を開け、一口飲みました。

「これが、大人になるってこと、か」とアキラは大人ぶって呟きます。

 そう。透けブラは一期一会のエトランゼ。ヴェルダース・オリジナル。

 アキラは嘔吐する十数分後まで、鈴木さんの勇ましい透けブラ姿の余韻に浸っていました。


 翌日。

 五人の戦士は集った。

 たったひとり、透けていないブラを見た男・ダイスケは迷った。

 真実を語るべきか、嘘をつくべきか。

 ダイスケは嘘をついた。いや、つかざろう得なかった。

 皆、一様に幸運に恵まれた男だ。だが、ダイスケは一線を越えてしまった。不運にも、自分の幸運というのは他言してはいけない秘密であった。

 偶然、空き教室でサボっていたら鈴木さんが着替え始めた。そんな話、誰が信じる? みんな、っていうに決まってるじゃあないか。

 こうして、ダイスケは嘘をつくことにしたのです。

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透けブラじゃないものを見ていたのは誰か? 兎ワンコ @usag_oneko

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