透けブラじゃないものを見ていたのは誰か?
兎ワンコ
第1話・問題編
あなたが教室に入ると、卑猥な話題が耳に飛び込んできた。
話の中心となる人物はタケシ、ダイスケ、アキラ、ヒラガ、ヒロシで、彼らの言葉に耳を傾けてみると、なにやらブラジャーの話をしていた。
「だから、透けていたんだって」と声を荒げるヒロシ。「あれは奇跡なんだ。ワイシャツで登校していたこと。そして、偶然にも予報が外れて豪雨であったこと」
さらに耳を傾ける。どうやら彼らは一様に昨日見たという透けたブラジャーの話をしていた。
「誰の透けブラを見たんだ?」とあなたは質問した。
すると五人は口を揃えて「鈴木さん」と答えた。
あなたは鈴木さんを思い浮かべる。男子たちには評判の美少女だ。可憐ながら、どこか大人びた彼女はまさに高嶺の花。
あなたは奇しくも昨日は学校を休んでいた。高熱を出していたあなたは、登校などできず、ベッドから起き上がるのすら困難な状態。あなたは後悔の念に駆られた。
悔しさと好奇心を残しながら、あなたはブラジャーの色は何色だったか尋ねた。
タケシはこういった。
「登校中に鈴木さんの透けブラを見たけどピンクであった。隣にはヒラガもいた」
すると横で聞いていたダイスケはいやいや、と首を横に振り、「俺もうっかり二度ブラを見てしまったけど、オレンジと青色であった」
残りの三人は首を傾げた。なんだろう、とあなたは疑念に思うが、残るアキラ、ヒラガ、ヒロシの言葉を待った。
「いつどこでかは言えないが、ブラは青色であった。ピンクは見ていない」
アキラはそういった。
「僕は登校中の透けブラは見なかった。でも、その後に透けブラを見れたけど、ピンクではなかった」とヒラガ。
「ぼ、ボクは一限目の体育の時に透けブラを見たけど、青色ではなかった」
ヒロシがそう言い終えると、その場にいた全員はおかしな表情を浮かべる。
あなたはこう思った。やはり、おかしい。話の整合性が取りづらい……いや、取れないのだ。
そしてあなたはまず透けブラについて考察した。そもそも、服の下着が透けるのは光が生地を透過し、生地の下にあるものを写してしまうからだ。近年になってフルダル系やUVカット加工を施したブラウスが導入され、透けブラは起きににくくなっている。
だが、ここで注目すべきは濡れた衣服はどうしても透けるということだ。
あなたは説明した。
「水分が衣服の繊維に染み込むことによって表面の凹凸がなくなり、光の乱反射が起きにくくなる。つまり、光は生地を貫通し、その下にあるものを写すことによって、透けブラは成立する」
全員があなたの言葉に関心した。一方、あなたの脳内ではある可能性が浮かぶ。
この中で透けブラを本当に見た者はいないのではないか?
その疑問を解消するため、あなたは学生人生をかけて、登校したばかりの鈴木さんに聞いてみた。
「鈴木さん。正直に答えてほしい。君は昨日、登校してから帰宅するまでのあいだ、ブラジャーを着替えたのかい?」
あなたの声に鈴木さんは顔を引きつかせた。困惑したが、あなたの真剣な眼差しに押され、苦々しく口を開いた。
「……いつどこでなんて言わないけど、一度ピンクのブラを着替えた。その着替えは五人の中の誰かに見られた気がする」
鈴木さんから軽蔑と差別が入り混じった感情がぶつけられている気がしたけど、あなたはたぶん気のせいだろうと片付けた。なぜなら、あなたの疑問は解消され、恐るべき事実を発見したからだ。
あなたは確信めいた口調でいった。
「つまり、君たちの中で鈴木さんの透けブラでないブラジャーを見た者がいる」
この時点で、あなたはその犯人を絞り込むことができた。だが、あなたは確実に犯人であるという断定的な証拠がほしいとも思った。
あなたは意を決して、もう一度鈴木さんに訊ねた。
「鈴木さん、教えてほしい。君はブラジャーをいつ着替えたのかい?」
「……昼休みに、校舎の奥の使われていない教室。鍵もかかってないし、荷物も山積みだから死角が多いと思って」
それは覗いた犯人も一緒だろうと、あなたは思った。そして着替えの光景を想像し、興奮と怒りに震えた。
「犯人は、鈴木さんのブラだけじゃなく、乳まで見た可能性がある!!」
怒りのまま声高らかにあなたは叫んだ。クラスメイトが一斉にあなたたちと鈴木さんを見た。
一方で、鈴木さんは恥辱で侮辱の目であなたを睨むが、あなたはそれを知らない。
「つまり」と、あなた。「昼休みに君たちがどこにいたかで犯人が決まる。昼休み、君たちはこの教室にいたのかね?」
五人に緊張が走った。それもそのはず。ハプニングスケベではなく、ピーピング・トム野郎がこの中にいるのだから。
初めにタケシはいった。
「俺はずっとヒロシと一緒にいたから、俺もヒロシも犯人ではない」
すると横にいたダイスケは首を横に振り、「いいや。犯人はタケシ、ヒロシ、アキラの中にいるはずだ」と言い退けた。
これに対してヒロシとアキラは狼狽えた。ヒロシは「タケシは犯人じゃないです」と弱々しく答え、アキラは「私から見えるところにタケシ、ヒロシ、ヒラガはずっといたので、犯人ではありませんね」と説明した。
最後になったヒラガはというと、「タケシ、ダイスケのどちらかが犯人」と二人を交互に指差した。
「なるほど」とあなた。
しばらくあなたは思案したあと、こう結論づけた。
この中のひとりだけ嘘をついており、彼は覗きでブラを見たが、皆と口を合わせるべく透けブラと嘘をついているのだ。
そして、あなたは力のこもった人差し指を犯人に向けた。
Q.着替え覗き、嘘をついたのはタケシ、ダイスケ、ヒロシ、アキラ、ヒラガのうち誰だろう?
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