第3話

「蓮、聞いてよ。ついに自分にもモテ期きたかも!」


 天音さんと別れて家に帰ると、蓮がソファで寛いでいたので思わず自慢してしまった。

 蓮はゲームのコントローラーを持ちながら、呆れたようにこっちを見る。


「とうとう妄想までするようになっちゃったか……」

「妄想じゃないから!」


 幼馴染がこんなに真面目に話しているというのに、なんて酷い。可哀想な人を見る目でこっちを見るな。


「今日天音さんから相談を受けたじゃん?」

「そうだね。昼休みちょっと注目浴びてたやつでしょ」

「そうそう。結局、放課後もう一回って話で会ってきたんだけどさ。多分天音さんが気になってる人、自分っぽいんだよねー」


 自分で話しててちょっとにやけてしまう。

 あれだけ条件が一致しているのだから、多分当たっているはず。


「……告白されたってこと?」

「いや、告白はされてないけど匂わせで多分自分っぽいなって」

「傑。いい加減現実見な? いくら女の子に飢えてるからって都合よく考えすぎだから。知ってる? モテない男子ほど自分に都合の良いように捉えがちなんだよ? これだから童貞は……」

「ど、童貞は関係ないわ!」


 やれやれと首を振る蓮。まったくこっちの言葉を信じてくれない。どんだけ、信頼ないんだよ、自分。


「天音さんが相談してくれた時、8組の人でつい最近話しかけ始めて、なにより彼女が美人って話題になったって言ってたんだよ。もう自分しかいないじゃん?」

「……まあ、確かに」

「それに、天音さんってほら、さ?」

「ああ、そうか。……ってことは、全然傑自身が好かれてるって訳じゃないよね? いいの、それで?」

「良いんだよ。可愛い女の子から言い寄られるなんて体験したことないんだもの。美少女からアプローチされるならなんでも良い」

「ぷ、プライドが一欠片もない……! ほんと救いようがないね、傑は」


 しみじみと言うのはやめてもらっても良いですか? 鋼メンタルの自分でも傷つくんだからね? 


 まあ、今は許しましょう。なんたって初めて女子からのアピールをいただいたのだから。


 どんな裏事情があったとしても嬉しいものは嬉しい。ふへへ。美少女からアピールされるのは最高だぜ。


 これからのことで期待に胸が膨らむ。単純に会話をするだけでなく、どこかに一緒に出かけたり、手を繋ぐなんてことも。上手くいけば付き合うことも出来るのでは?


「……凄いニヤけてるんだけど。今日の傑はいつも以上に気持ち悪いね」

「えー、なに? 羨ましいからって嫉妬?」

「ほんと、だるい」

「いくらでもいいなよ。今ならなんだって許しちゃう。なんたって、今日は、人生初の、モ・テ・期、だからね♪」


 考えれば考えるほどにワクワクが止まらない。蓮の毒舌なんてノーダメージ。今の俺は最強だよ?


「あのさ、多分傑のことだから、今後天音さんとのあれこれについて妄想してるんだろうけど」

「やだなぁ。妄想だなんて。確度の高い未来と言ってよ」

「……はぁ。気付いてないみたいだから言うけど、天音さんと付き合うのは無理だと思うよ?」

「な、なんでよ」

「傑さ。自分が彼女持ちって設定になってるの忘れてるでしょ」

「っ!」


 思わず息を呑む。モテ期到来のあまりの嬉しさで完全に忘れていた。


「そ、そうだった……」

「彼女持ちなのに、他の人付き合える訳ないでしょ」

「そ、そこはほら、別れたという風にする手も」

「そしたら、天音さんの興味が無くなるんじゃない」

「そ、それはまずい!」


 そんなことになったら自分の計画は全部パァになってしまう。そんなことは許されない。美少女といっぱいいちゃいちゃしたいのに。


「あと、天音さんに絡まれた時、下手に喜ぶと浮気野郎になるからね?」

「な、なんですと!?」

「彼女がいるのに他の女の子に鼻の下伸ばしてたら色々言われるよ? みんなの憧れの恋愛マスターなんだから尚更」


 そりゃあそうだ。彼女がいるのに他の女子と絡んで喜んでる姿なんて見られたら、それはもう酷く噂になるだろう。


 た、耐えられるだろうか。あんな可愛い子から近づかれたらにやけてしまう自信しかない。

 あんなに可愛いんだもん。澄ましたままとか無理すぎる。

 

「傑が天音さんと絡むのは自由だけどさ。あれだけ恋愛に慣れてる人なんだから、下手なことすると彼女持ちってのが嘘ってバレるかもよ。女子の扱いに慣れてなさすぎって。バレたら周りの人に伝わるだろうね。ああ、楽しみだなぁ」

「う、うわぁぁぁ」


 いやだいやだ。絶対彼女持ちが嘘だってバレたくない。そんなの恥ずかしすぎて死ねる。100%黒歴史。速攻不登校からのニート一直線ルートに突入しちゃう。


「れ、蓮。ど、どうしよう。どうしたらいいと思う?」

「知らない。元はといえば、傑がしょうもない見栄を張ったのが原因でしょ。自分でなんとかしなよ」


 そう告げると蓮はまたゲームに戻ってしまう。


(ど、どうすればいいんだ……!)


 さっきまでの天国はどこへやら。地面に膝をついて、深く頭を抱えた。

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