第2話
常日頃から色んな人に相談を持ちかけられているわけだけれど、話しかけられるのは昼休みの時間が多い。
多くの場合は友人と一緒に、というパターンだけど、一人でふらっと入ってくる人もいる。
偽カノ(男)の写真を公開した翌日の昼休み。今日も一人やってきた。
「天童寺先輩! あの……相談にのってもらってもいいですか?」
教室に入ってきた女の子は、目の前に立つと懇願してきた。亜麻色のミディアムボブの髪はサラサラと揺れて、見上げる瞳がくりっと輝く。
(おお……! 噂通りめっちゃ可愛い!)
日頃から相談を受けているので、学校内の人の名前はかなり知っているけれど、彼女は特に有名だ。今年の春に入学してきて、一気に話題になっていた。
モデルにも引けを取らないその姿は、見る人を虜して離さないとまで、噂になっている。
遠目に見かけたことはあったけれど、実際目の前で見ると、そりゃあ男子みんなが惚れるのも頷ける。……彼女持ちの男子も含めて。
彼氏が取られたと何回か相談を受けることがあったし、中にはその対応に非常に苦労したこともあった。
ある意味、自分も彼女に迷惑をかけられていたと言ってもいい。
でも、許そう。許すしかない。なんたって可愛いからね! いや、もうこんなに可愛いなら仕方ないよ、うん。
「天音さん、だよね? もちろん全然いいよ」
「わぁ、私のこと知ってくれてたんですね」
ぱぁっと花が咲くような笑顔が浮かぶ。もはや天使。生きててよかった。
「それでどんな相談?」
「えっと、好きな人について相談したいんですけど……」
(なんですと!?)
こんな美少女に想いを寄せてもらえるとか心底羨ましい。どんな前世を過ごしたらそんな幸運に恵まれるんだ。捨て猫100匹でも拾ったのか? 俺だってゴミ拾いしてるのに(違う)
勝手に心の中で憤慨していると、目の前の天音さんがちらちらと周囲を見ていることに気がつく。自分も周りを見渡してみるとすごい注目が集まっていた。
やはり話題に事欠かない彼女。すごい。
「あの、先輩。今の時間だと人や注目が凄いので、放課後に改めて相談に乗ってもらってもいいですか?」
「うん、おっけー。そしたら放課後に談話室のところでいいかな?」
「ぜひ! それでお願いします!」
一瞬だけ彼女の口元が上がった気がしたけど、すぐに頭を下げたので見えなくなってしまった。多分気のせいだろう。
(やったね。美少女と放課後デートなんて最高すぎる。役得役得♪)
ウキウキ気分が止まらない。彼女に好きな人がいるのに何を期待してるんだって? そんなの知りませんね。美少女はもう目の前にいるだけで癒しなんですよ。おしゃべりなんてしたら、そりゃもう人生最高の瞬間と言ってもいい。
、
悲しい人生だって? やかましいわ。
もう少し話していたかったけど、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまう。
「あ、もうこんな時間。先輩。そしたら放課後お願いしますね」
「うん、よろしくね」
とたとたと駆けて天音さんは教室を出ていった。ぽわぽわと弾む後ろ姿も良き。
♦︎♦︎♦︎
授業が終わり、約束の放課後の時間がやってきた。談話室は校舎の端っこにあるので、少し歩く必要がある。ざわざわと帰宅の生徒たちの喧騒が遠のく中、目的地へと足を動かす。
(それにしても、天音さんからの恋愛相談か)
美少女とおしゃべりタイムは最高だけれど、相談内容はかなり厳しくなりそうだ。なにせ、あの天音さんからの恋愛相談だし。
彼女の今回狙う相手は、おそらく彼女持ちだろう。これまで彼女と噂になっていた人の大部分は彼女持ちだったからその可能性は高い。
(……羨ましすぎるんですが!?)
自分を好きになってくれた両想いの女の子がいるだけでも妬ましいのに、その上美少女の天音さんにまで言い寄られるとか、ずるすぎるでしょ。自分にも一人くらい頂戴よ。なんで俺には一人もいないんだ……! 思わず心の中でハンカチを噛み締める。
「あ、天童寺先輩!」
談話室の前で手を振る天音さん。どうやら先に来ていたらしい。
「ごめん、待たせちゃって」
「いえいえ。私が早めに来ただけですから」
「じゃあ、中で話そうか」
何回もここは使っているので慣れている。適当に座る椅子を見繕い、机を挟んで向き合うように座る。
「それで相談したいことっていうのは? 正直あんまり力になれる気はしないけど……」
自分みたいなエセ恋愛マスター(笑)が出来るアドバイスなんて、ネットにあるようなことしかない。数々の男子を落としてきた天音さんの方がガチの恋愛マスターである。
そんな天音さんが困るような相手とか、RPGだったら魔王よ? 初心者の村でチュートリアルの案内をするNPCみたいな自分に何が出来ると?
不安しかないが、なんとか乗り切ろうと気合を入れていると、目の前の天音さんは、こちらを見つめてにこりと微笑んだ。うん、天使。
「実は、一つ上の先輩で最近気になり始めたんですけど、相手のことがまだそこまで知らなくて、どうアピールしたらいいか悩んでるんです」
「ああ、なるほどね」
一個上の先輩か。って自分と同学年じゃん。ますます羨ましい。
「どんな人なの?」
「その、言いにくいんですけど、彼女さんがいらっしゃって」
「まあ、気になっちゃったなら仕方ないよ」
ここまでは概ね予想通り。これまでも好きな人に彼女がいるって相談してきた人は何人もいたから、傷つけない言い方は心得済みだ。
「ふふ、先輩は優しいんですね?」
ゆっくりと柔らかく微笑む天音さん。はい、可愛い。美少女の笑顔頂きました。
「そういう人はこれまでも何人も話聞いてきたからね。気にすることないよ」
「ありがとうございます。そう言って頂けると少し話しやすいです」
「それで、どうアピールしたらいいか分からないって話だっけ?」
「はい。やっぱり先輩なのであんまり関わる機会がないですし、教室も遠くて……」
「何組の人?」
「8組です」
まさかの自分のクラス。そんなイケメンいただろうか?
「確かに、自分のところだと特に天音さんのクラスからは遠いかもね」
「そうなんです。だからなかなか近づくのが難しくて」
「だとしても多少強引でも何かしら関わりには行かないと厳しいかもね」
「ですよね。私もそう思って、声をかけたんです」
「いいじゃん。反応は?」
「向こうも私のこと知ってくれてました」
「天音さんは有名だからねー」
今のところ聞く感じは問題なさそうに思える。相談という割には、天音さん自身で結構動いているみたいだ。いいなぁ。俺も女の子にアピールされたい。
「まだまだ始まったらばかりって感じだけど、順調に進めていけてるんじゃないかな?」
「そうですかね? 気になり始めたのがつい最近でまだあんまり動けてないかなとも思うんですけど」
「そうだね。関わる機会が少ないんだから遠慮せずアピールするといいと思うよ」
「いいんですか?」
こちらを見つめる天音さん。
やれやれ、何を遠慮しているのか。普段なら相手側のことに配慮して、もう少し問題が起きないように進めるけれど、今回は天音さんだ。引き止めたところで勝手に進めるだろう。だったらこっちは押すしかない。
「もちろん。無理やり強引は良くないと思うけど、話しかけるくらいなら全然してもいいと思うよ」
「そう言ってもらえるなら、遠慮せず話しかけられそうです」
「うん、頑張って。応援してる」
「ありがとうございます。やる気が出てきました。昨日彼女さんがめちゃくちゃ美少女だって話題になって、どうするか迷っていたんですけど、やっぱり彼女さんが可愛いならもっと狙いに行かないといけませんよね。頑張りたいと思います!」
「……え?」
(狙われてるのって、自分!?)
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