十四話

 

「別れよう」

 昼休み、中庭のベンチに座りながらそう告げる。寝転がる少女はこっちに目を向けつつも微動だにしなかった。

 今は十一月。あと一月ひとつきでクリスマスといった頃合い。取り立てて、意味のなさそうな時を選んだのは、意味がなさそうというところを気にいったから。この味気なさが良かった。

「他に好きな人ができたんだ」

 ありきたりの理由は、やはり少女の心を少しも揺らすことはないみたいだった。こうなっていると、付き合っている自体が幻だったんじゃないかって疑いそうになるけど、今日までの彼女との触れ合いがそれを否定する。最初から最後まで、少女はこういう少女なのだ。

「最初は君を迎えに行くついで世間話をするぐらいだったけど、段々と彼女に会いに君の教室に行くようになっていって、それで次第に惹かれていった」

 君にはすまないと思っている。頭を下げた。しかしながら、実際のところ申し訳なさなんてこれっぽっちもない。加えて、これから付き合う予定の女の子に対しての好意もない。欲しかったのは、別れるための既成事実だけ。

「後は転げ落ちるみたい、俺と彼女は会うようになった。正直、君のことなんて忘れていた時もあった。いや、むしろ」

 ためを作る。少女を見る。欠伸あくびをしていた。

「そもそも、君から言われて付き合っていたけど、俺の方は最後の最後まで君のことを好きになれなかった気がする。ごめんね」

 多く触れ合って、唇も合わせ、抱き合ったり、繋がったりしたけど、あったのは少女に対しての落胆と虚ろな気持ちだけ。我ながら勝手だと思うけど、人との付き合いの大半はこういう退屈で満ち溢れている。彼女もこの中の一人だった。ただ、それだけ。

「だから、勝手だけど。別れて欲しい」

 また、頭を下げる。

 びんたや拳、泣き縋りつかれたりするかもしれない。他の女の人と別れた時のことを思い出し、そんなことを思うものの、この少女に関しては違う結果になる気がした。

 おそらく、黙ったままなにも言わないんじゃないか。仮にこの別れの申し出に対して彼女の中に小さくない不満があったとしても、そのままの形で表れては来ないのではないか、と。とはいえ、付き合い終わり頃に照らしあわせてみれば、少女の感情は月並みなものに変わっていた以上、今までの有象無象な女性たちと似たような態度になる可能性もあった。

「別れない」

 ぼそりと呟かれた言葉は、半ば予想してもいた。少なくとも、彼女にとっては今ではないのは確かなのだから、受けいれる理由はないのだから。

 あからさまにため息を吐いてみせる。

「でも、俺の気持ちはもう君にはないし、付き合う気もない」

 だったら、どこに気持ちがあるのか。心の中での呟きに対する答えを俺は持っていない。

「関係ない」

 温度のない言葉とともに、はっきりと会話が成立したのを感じた。

「俺は君なんて気にせずに、新しい彼女と付き合うよ」

「関係ない」

「もう、君にかまうのもたくさんなんだ」

「関係ない」

「だから、俺は君と別れたことにして振舞うよ」

「関係ない」

 少女の目。陽の光の下で毛ほどの動きもないそれは、ただただこっちを突き刺すようにして見上げている。

「付き合ってるから」

 淡々とした声音には、たしかな温度が籠っている気がした。


 



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