七話

 夏休みに入ってからというもの、だらだらと日々を過ごしている。

 昨今の暑さもあいまって、好き好んで外に出る気にもなれず、かといって出不精かといえば、誘われれば行く、くらいの消極的な気持ちはあった。

 今日もまた例外ではなく、クラスメートに呼びだされて屋外プールにやってきている。水泳の授業を除けば久しぶりだったけど、合法的に水を浴びられる機会というのは、何者にも代えがたい。もっとも、気持ちいいくらいの晴天だったのもあって、潜水してないと焼けそうになったし、水温も薄らと高い気がした。

「いいと思わないか」

 プールサイドにあるパラソルの下での休憩中。ニヤニヤした友人がそんなことを言った。何のことやら、と思って、友人の視線を追ってみると、流れるプールではしゃいでいるクラスメイトの女子たち。元カノもいた。

「絶景だろ」

 顔の輪郭が緩んでそうな男に、どう反応していいものかと思いつつ、知り合いに聞かれてはいやしないかと辺りを見回すが、さしあたっては大丈夫そうだった。

「なんて、答えて欲しいの」

「俺は素直に思いのたけを言っただけだ。お前も同じようにぶちまけてくれればいいさ」

「別に、どうとも思わないけど」

「またまた。不能じゃあるまいし。それとも水着ぐらい見飽きてるとでも言いたいんか」

「そうじゃないけど」

 甲高い声を上げるクラスメイトたちをあらためて眺める。色とりどりの水着に身を包み、体の凹凸のラインをくっきりとさせる女の集団に、そそられるものがないかといえば嘘になるし、去年のオレンジのセパレート水着から、黒いワンピース風の水着に変わった元カノなんか見てると、色々なことを思い出したりもする。とはいえ、

「別に、今はそういう気分じゃない、からかな」

 そうした興奮は、今はどことなく縁遠い。こと今日にかぎれば、ただただ遊びに来ただけという意識が強かったからか、その他のことに気持ちを割くという感じじゃない。

 こっちの答えをどう受けっとったのか、友人は、ははぁん、とわざとらしげに笑う。

「ってことは、そっちの欲望は日々満たされてるってことだな」

「急に、何を言い出すんだよ」

 というよりも、別に満たされてもいない。なにを勘違いしたら、そんな解釈になるのか。友人は下卑た表情を晒したまま、

「お前のあの、ちんちくりんな彼女が頑張ってるってことか」

 下種の勘繰りをする。なにを言い出すかと思えば。

「そういうのは、まだあの娘とはないよ」

「そうか。そこのところ、イメージ通りだな」

 あれと色っぽい展開になる未来が見えないしな。

 各方面に失礼な友人の発言に辟易しつつも、頭に浮かぶのは、少女の唇。

 あの休みの日の口移し事件以来、ちょくちょく唇を押し付けられた。例のごとく何の前触れもなく、気が付けば唇が合わさっていることもあれば、したい、の一言とともに突きだしてきたりもする。

 何某かの好意はたしかにあるはず。行動や振舞いからしても、それは確実のはずなのにもかかわらず、どうにも最後の確信のところが掴めない。中摺りのまま、薄らとした肉と唾液の感触だけが残っている。

「ほらほら、帰ってきたぞ」

 友人の声で我に返ると、流れるプールから上がってきた女子たちが、こっちに手を上げて歩いてくる。

 なぜ、いない時まであの少女のことを考えているんだろう。首を捻りながら、友人とともに、女子たちを迎える。なぜだか、元カノが不機嫌そうにこっちを見ていた。


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