一話


「付き合って」

 ある日、面識のない後輩の少女にぼそりと直接告げられた。何の前触れもなく。昼休み、購買に行く途中だった。

「付き合うってなにに?」

 少女の行う何かに付き合うという意味ではない気はしていたけど、念の為カマトトぶってみた。

「付き合って」

 後輩の少女は無表情で同じ言葉を繰り返す。詰まるところそういうことだろう、と察して、俺は自らを指差す。

「つまりそれは、俺と」

 続いて少女を差そうとしたところで、嫌がるかもしれないと思いいたり、迷ってから手の平を開いて向ける。

「君が付き合うって意味か」

 無言。ただ、付き合って、と言葉を繰り返していないところからするに、肯定の意味なのではないか。そう解釈した。

「どうして、俺と」

 まずはそれがわからなければと理由を尋ねる。どうしたものかと決めかねていた。けど。

「付き合って」

 少女は同じ言葉を繰り返した。

「だから、理由を」

「付き合って」

「教えてくれって」

「付き合って」

「言ってるん」

「付き合って」

 だけど、と漏らしたところで、口を閉ざす。それきり少女は口を閉ざし、じぃっとこっちを見つめている。

 居心地の悪さを覚えつつも、答えは決まっている。まともな話ができない人間と付き合いが成立するはずがないと。だから、断る一択だ。今はいないだけで、付き合いを希望する女に困ったこともないから、わざわざ、このわけがわからない少女を選ぶ理由もない。

 だから、

「悪いけど」

 返事をしようとしている間も、少女の目は少しも泳がなかった。

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