16日目 決断

変わり映えのしない毎日だった。

この日も、何か特別なことが起きるわけもなく過ごすものだと思っていた。

教室に入って自分の席に座って、ぼーっとしていた。

唯一違ったのは、周りが自分のことを見てヒソヒソ話していたことだ。

今までこんなことはなかった。

俺のことを見ても、嫌そうな顔をしてチラ見する程度で、それ以外はいないもの扱いしていたのに。

突然の変化に戸惑いながらも、気にする必要はないかと無視を決め込んでいたらこちらに複数の人が近づいて来た。


「なぁ、風間。今いいか?」


「……何だ?」


面倒だと思いながらも、彼等の顔が真剣味を帯びていたので、少しくらいならと聞くことにした。


「お前……白雪さんとどういう関係だ?」


「は?」


思ってもいなかったことを聞かれて、俺はつい気の抜けた言葉がこぼれた

言葉の意味を理解した瞬間、体中から汗が溢れ出す。

運動後の気持ちのいい汗ではなく、気持ちの悪い冷や汗だ。


(バレた?いや、待て。隣の席だからってだけかもしれない。結論を出すにはまだ早い)


思考を高速で回して、嫌な予感から逃れる方法を考える。


「…質問の意図が分からない。何のことだ?」


「先週の木曜日さ、風間と白雪さんが一緒に歩いているところを見たって言う友達がいるんだ」


はい、バレています。

無理でした。


「これさ、友達から送られてきたんだけど風間と白雪さんだよね?」


彼が操作したスマホを覗くと、そこには楽しそうに笑う白雪と苦笑気味な俺が写っていた。

……いや、勝手に写真撮るなよ。

盗撮だろ。


(にしても、写真まで撮られていると誤魔化すのは無理だな…)


「…仮に俺だとしても、それがどうかしたか?」


「どうかしたかって、お前みたいな奴と白雪さんが一緒に出かけているなんて、おかしいだろ!?」


「何でだ、何でお前が…!」


「白雪さんはお前の何処が良かったんだよ!?」


男の叫びを皮切りに、次々と声を上げる男子。

にしても…好き勝手言いすぎだろ、お前ら。

いやまぁ、言いたいことは分かる。

普通に考えておかしいと思うだろうな。

俺も思ってるもん。

とは言え、そこまで言われると……逆に助かった。

お陰で、決断をすることができた。


「まさか、白雪さんの弱みを握っていて…」


「だと言ったら、どうする?」


「えっ?」


思ってもいなかったのか、随分と間抜けな顔をする男達に聞かれる前に捲し立てる。


「お前の言う通りだよ、俺はアイツの弱みを握っている」


「何を、言って…」


「それもとんでもないスキャンダルをなぁ。俺はそれを利用してアイツを良い奴隷にしている。あっちこっち連れ回して、奢らせて、遊んでいるだけだ」


いっそ清々しい程の笑みを浮かべて、邪悪に笑う。

してもいないことをつらつらと述べ、悪役に徹する。


「いい気分だよ、クラスのアイドル様を俺みたいな奴が自由に使うことが出来るんだから――」


言い切る前に、目の前の男は拳を飛ばして来た。

狙いを違えることなく、俺の左頬に衝撃が伝わってきた。

男は顔を怒りで染めて、肩で息をしていた。

突然降りかかってきた痛みに、多少ふらつきながらも、お門違いだと思いながらも男を睨む。


「お前は……最低だ!!白雪の気持ちを考えたことは無いのか!?」


「……ハッ、知るかよ。そんなこと」


男を押しのけて、バックを持って教室から出で行く。

俺達のいざこざの成り行きを見守っていたクラスの連中は、俺のことを軽蔑したような目で見てくるが、そんなことはどうでもいい。

取り敢えず、今日は帰ろう。

これ以上ここにいても、面倒くさい目に合うだけだ。


「拓見君……?」


…今一番会いたくない奴と出会った。

心配そうにこちらを見てくる白雪に、思わず足が止まる。

本当なら無視したいが…。


「…ありがとな、白雪」


「えっ?」


最後にお礼を伝えるぐらいは、いいだろう。

何のことかわかっていなさそうな白雪の横を突っ切って、外へと出る。

そのまま、自宅へと帰宅する。


(…はぁ、願うことならもう少しだけ、白雪と過ごしたかったな)


そんな未練を残して、尚もこちらを見てくる白雪の視線を感じながら、学校を後にした。

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