15日目 帰宅②
「疲れたー…」
自宅に入るなり、疲労の声を漏らす。
バックを寝室に置き、制服から私服のパーカに着替える。
週末なので何をするでもなく、適当にベットの上をゴロゴロしていたら、スマホが振動したので取り出す。
『拓見君!見てください、この三毛猫!可愛くないですか!?』
メッセージにはやけに興奮した様子の白雪からの写真と文がついてた。
『確かに可愛いな』
『そうでしょう、まるで何処かの白い雪の彩り豊かな華の人みたいですよね?』
『誰だそいつ、俺の知り合いにはそんな人いないが』
『わかって言ってますよね?(圧)』
『ソンナコトナイゾー(棒読み)』
『(棒読み)が付くほどの棒読みはやめてください!」
「…フッ」
連絡先を交換してから、偶にこういったやり取りを繰り返している。
最初は少し面倒くさかったが、ここ最近はこれが楽しみになりつつある。
「本当に変わったな、俺」
昔なら誰かと話したり、一緒にご飯を食べたり、帰宅を共にしたり、遊んだりなんてしなかったのに。
白雪彩華と関りを持ち始めて、俺の中にある価値観が少し変わったように感じる。
そして同時に彼女に感謝もしている。
授業中起こしてくれることで、重要な内容を聞き逃さなくなった。
昼飯を作ってくっれるおかげで、食費は浮くし、栄養バランスもほんの少しだけだが改善された。
話をしてくれるおかげで、静寂な寂しい空間に明るい言葉が飛び交うようになった。
家に籠りっぱなしの俺が、外の世界で外食をしたり買い物をしたりするようになった。
今までどうでもいいと思っていたことが、面白く感じられるようになった。
一人ぼっちの俺が、誰かと関わることが出来た。
全部全部、白雪彩華のおかげだ。
彼女みたいに遠慮せずに積極的に話してくれて、嫌なことはしないでくれるからこそ、この不思議な関係が築き上げられた。
「できれば、この関係を維持したいけど…」
怒りのメッセージを送って来る白雪を適当にあしらいながら、ぼんやりとそんなことを考える。
「だけど……難しいだろうな」
前にも考えたことはあるが、俺と彼女は根本的に立場が違う。
片やクラスの嫌われ者、片やクラスのアイドル。
どう考えても関わることのない俺達が、こんな風に話していることが周りにバレたらただでは済まないだろう……俺が。
それにないとは思うが、下手したら白雪まで危害が及ぶかもしれない。
それだけは、絶対に避けなくてはならない。
傷づくのは、俺みたいな碌に人と話そうともせず、これと言って努力もせずに、周りに辟易している屑だけで十分だ。
彼女のような笑顔が似合う優しい女の子に、そんな目を合わせる訳にはいかない。
「これだけは何があっても譲れないし、譲らない」
嫌われ役は俺でいい。
『ハズレ』なんてあだ名が付けられている俺にピッタリな立場。
今更、興味のない他の奴等に文句を言われたって、どうもしないだろう?
「……本当に変わったな俺。前ならこんな自己犠牲みたいな考えに至らなかったぞ?」
自分でも、何でここまで体を張るのかは分からない。
まるでヒーローみたいだと、自分に酔いしれているのか。
物語の主人公にでもなったのだろうか?
馬鹿馬鹿しい。
俺はそんなキャラじゃないし、そんな痛々しい人間に成り下がった覚えもない。
「ただ、一つだけ分かっているのは」
彼女のことが、家族以外の特別な人になってしまったことだ。
「…ったく、これだから人と関わりたくないんだよ」
特別が増えると、いざと言う時の判断が鈍る。
守り切れなくなる、亡くした時に立ち直れなくなることを俺は知っている。
そんな事を感じたくなかったから、特別な存在なんて作りたくなかったんだ。
「でも、なっちまったもんは仕方ない。俺は俺に出来ることをやるだけ、それが白雪への恩返しにも繋がるんだから」
難しく考えなくていい。
彼女が俺を助けてくれたみたいに、俺も彼女を俺なりの方法で助けるだけだ。
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