14日目 デート
「さて、行きましょうか。拓見君」
「…おう」
先行している白雪はこちらを振り返って笑顔を見せる。
その笑みにぎこちなく返答する俺は、何故こうなったのかを考えていた。
昨日、俺は白雪からデートのお誘いを受けた。
正確には学校終わりの放課後に買い物をするだけなのだが、彼女の''デート''と言う発言に俺は意識せざるをえなかった。
確かに男女が一緒に出かけるのはデートだ、と過去に見た恋愛漫画で言っていたシーンがあったが、それはあくまで二次元の世界の話なので現実に適応されるわけではない。
そう、これはただの買い物。
俺は白雪の付き添いってだけだ。
最近いろいろあったからって、変に意識するな。
いつも通りに自然体で行こうと言い聞かせていると、目的地に着いたらしい。
「ここです、ここ!」
「…カフェ?」
着いた場所は高校から少し離れたカフェだ。
「何でまたこんな所に?」
「フッフッフ…これを見てください」
おもむろに含み笑いを披露した白雪は、スマホを取り出して俺に見せてきた。
どうやらここのカフェのホームページみたいだ。
えーっとなになに…『にゃん太の飼育記コラボ中!!』…。
「…マジ?」
「マジです」
嘘だろ…。
全然知らなかった…。
この俺が好きなものの大事なコラボを逃すなんて…っ!
「拓見くーん?ボーっとしていると置いていきますよ?」
「っ!あ、あぁ。今行く」
先を行く白雪に慌てて追いつく。
扉を開けた先は、黒や白、茶色などの色彩が薄い色が使われていて目に優しく、それでいて落ち着ける雰囲気を醸し出していた。
店内を見ていると、女性のスタッフらしき人物がこちらに来た。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「二人です」
「かしこまりました。ではお席へご案内いたします」
白雪の答えに頷いたスタッフは、俺達を二人用のテーブル席へと案内した。
「ご注文はこちらのボタンから、それではごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をするスタッフに、白雪も礼を伝えて席へと座る。
「慣れてるんだな」
「いえ、ここに来るのはこれが初めてです…さて、さっそく頼むとしましょうか」
メニュー表を広げた俺達は、コラボメニューのページをすぐに開いた。
『にゃん太のイチゴパフェ』、『猫ミルクのソフトクリーム』、『にゃん太のご主人が良く食べるメロン』…いろいろあるけど…。
「…決まった、俺は『にゃん太のイチゴパフェ』で」
「私は『にゃん太のご主人御用達のオレンジジュース』と『猫ミルクのソフトクリーム』にします」
食べるものが決まった俺達は、ボタンを押してスタッフの人を呼ぶ。
厨房辺りからやって来たのは、俺達を案内してくれた先程の女性スタッフだ。
「お待たせいたしました。ご注文はお決まりでしょうか?」
「えーっと、『にゃん太のイチゴパフェ』と…」
「『にゃん太のご主人御用達のオレンジジュース』と『猫ミルクのソフトクリーム』をお願いします」
「『にゃん太のイチゴパフェ』が一点、『にゃん太のご主人御用達のオレンジジュース』が一点、『猫ミルクのソフトクリーム』一点、合計三点で間違いないでしょうか?」
「大丈夫です」
「かしこまりました。少々お待ちください」
白雪の返事を聞いた女性スタッフは、しっかりとした足取りで戻っていった。
にしても、この人なんかカッコいいな。
多分年もそんなに変わらないだろうに、ベテラン感が凄い。
「…綺麗だな、あの人」
ぽけーっとしていた俺は、ふと思っていたことを口に出す。
すると、白雪に脛の辺りを軽く蹴られる。
「いたっ!?何すんだよ?」
「べっつにー、何でもありませんよー」
明らかに拗ねた様子の白雪は、首をふいっと横に向けた。
絶対何かあったろ…。
というより、俺が何かしたのか?
…女心は分からん。
そもそも、自分以外の人の考え方がよく分からない。
まぁこれは、俺のやり方に問題があるんだろうけど…。
かといって今更直すつもりもないが。
そんなことを考えながら、スマホをいじって適当に時間を潰していると、注文したものが届いた。
「お待たせしました。『にゃん太のイチゴパフェ』と『にゃん太のご主人御用達のオレンジジュース』と『猫ミルクのソフトクリーム』です。ご注文の品は以上で問題ないでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「かしこまりました。では、ごゆっくりどうぞ」
女性のスタッフは再度頭を下げてその場から去って行く。
テーブルの上に乗せられたパフェの豪華さに驚いていると、白雪はすかさず写真を撮り始めた。
「ほら、拓見君。こっちを向いてください」
「ん?っておい!」
俺が白雪の方を向いた瞬間、カメラのシャッターを切った。
思わず抗議の声を上げる俺に、白雪はクスクスと笑った。
「中々良いものが取れました。これは永久保存版ですねぇ」
「何言ってんだ…と言うか、許可なく写真を撮るな」
「おや、駄目ですか?」
「駄目に決まってんだろ…まぁ、悪用しないなら別にいいけどよ」
嘆息しながら告げた俺の言葉に、白雪は何故か硬直していた。
「どうしたんだ、いきなり固まり出して」
「い、いえ。ちょっとびっくりしまして…拓見君が許可出してくれることに」
「お前なら変なことに使わないだろうしな」
「………それはつまり、私のことを信頼してくれているということですか?」
「まぁ、そういうことかもな」
信頼…か。
確かに、何だかんだ三週間近く過ごしているわけだし。
何だかんだコイツの性格とか、見えてくるものもあった。
人がよっぽど嫌がることはやろうとしなかったりな。
「ふ、ふーん…そうですか。信頼してくれてるんですか」
「お、おう?」
何故かにやけている白雪に疑問を感じながらも、スプーンを取り出してパフェのミルクアイスを一掬いして食べる。
パフェ全体にかけられたイチゴのソースと、アイスが合わさってよりまろやかな仕上がりになっていた。
文句なしの俺好みのパフェに満足していると、白雪がこちらをキラキラした目で見ていた。
「……食べたいのか?」
「いいんですか!?」
「えっ、お、おう」
まだ何も言ってないいんだけど…。
つい反射的に応じてしまった。
白雪は自分のスプーンを使って一口食べた。
頬っぺたが溶けるぐらいに顔を綻ばせた姿を見ると、来て良かったとらしくもないが思ってしまった。
こういう時は素直に可愛いとも思ってしまう。
すると白雪はすっ、と俺にソフトクリームを渡してきた。
…これはつまり。
「食べろってこと?」
「はい、お返しです」
なら食べるか。
ぶっちゃけ気になっていたし。
自分のスプーンを使って、ソフトクリームを掬い上げて口に持っていく。
(…うん)
美味い、ただその言葉に限る。
何て言うか…ふわふわしていて面白い食感だ。
病みつきになってしまいそうで、少々怖い。
白雪にソフトクリームを返しながら、礼を告げる。
「ありがとな、美味かったわ」
「それは良かったです…さて、溶ける前に食べちゃいましょう」
「あぁ」
パフェをスプーンで掬い上げて食べようとした瞬間、俺は動きをピタッと止めた。
(あれ、これ間接キスでは?)
普通に流されそうになったが、よくよく考えてみればお互いの口を付けたものを入れ替えて食べたわけで…。
どう見ても間接キスです、ありがとうございました。
…じゃねぇよ!!
「おい!白ゆ―――」
「ん?」
慌てて声を掛けようとするも、一足遅く。
白雪はもう既に、口の中にソフトクリームを入れていた。
その光景を見て、俺の動きは止まりざるをえなかった。
「どうしました?拓見君?」
「あぁ、いや、えっと……な、なんでもない」
「そうですか?…まぁ、言いたくないなら良いですけど」
訝しながらも、ソフトクリームを食べる手を止めない白雪。
白雪に今その話をしたら、絶対に食べようとしない。
美味しそうに食べる白雪の顔を見ると、何だか申し訳ない気がしてつい話すことを躊躇ってしまった。
「……白雪、パフェ食べるか?」
「えっ?良いんですか?」
「あぁ…何て言うか、食べる気なくしちまって」
ここで事の重大さを理解している俺が食べたら、変態みたいになってしまう。
それならせめて、わからずに食べている白雪の方が良い。
とは言え、俺が口に付けたものを食べているわけで…。
いけないことをしているようで、顔が熱くなるのを感じながら、白雪にパフェを献上した俺だった。
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