12日目 立場

テストとテストの間の休憩時間。

それぞれがトイレに行ったり、飲み物を飲んだり、最後の復習をしたりする時間。

俺も例に漏れずに、教科書を読み漁っていた。

次のテストは歴史。

単語を頭に詰め込んで、漢字の間違いなどの凡ミスをしないように取り組む。

一人で席に座り、黙って知識を叩きこむ。


「ねぇー、これってどういう意味?」


「それって確か、本文の八行目辺りに載ってたはずだよー」


教卓付近で喋る女子の声が聞こえてきて、チラッと視線を向けると五人ぐらいの女子が固まって話し合っていた。

問題を出し合ったり、質問したり、確認したり…。

話している内容がテストに関係することなので良いが、普段ならうるさいと文句を付けたくなる。

とは言え、これも完全な八つ当たりなので思っていても言いはしないし、むしろこんな思考回路をしている自分が少し惨めに思えてくる。


(まぁ、本当に惨めなんだけどさ)


俺は、所謂''社会不適合者''…社不と呼ばれる存在だろう。

人と話さず関わらず、距離を一方的に置いて閉ざすような人間だ。


(そう、俺はアイツとは違う)


五人組の女子の中に、見知った顔がいる。

白雪彩華。

彼女は誰に対してでも明るく、丁寧で、優しい。

俺みたいな捻くれた男が相手でも、面倒を見てくれるおかしな奴。

学校中の誰もが認める、内面も外面も完璧な存在が白雪彩華だ。

目の前で広がる光景が、彼女に人望の高さを物語っている。

そんな人を本来は見習うべきなんだろう。

しかし、俺は彼女みたいな存在になろうとは思わない。

関わる必要のない人と話すことに、何の意味があるのだろうか?

人に優しくしても、見返りが返ってくるわけでもないのに。

彼女の行動を、俺は理解できずにいる。

自分は自分、他人は他人。

自分の心に嘘付いて、無理して人と関わりたくない。

少なくとも、俺はそう思う。

だからこそ不思議だ。

そんな俺と白雪が関わっていることが。

真反対の価値基準を持っている人間同士が、二週間以上関わっていることが。

…でも。


「俺とアイツは…関わるべきじゃない」


俺は、誰にも聞こえないぐらいの小さな呟きを溢していた。

俺達の関係は一体何だろうか?

片やクラスの嫌われ者、片やクラスのアイドル。

俺と白雪の高校内での立場は、根本的に違うということだけは分かる。

今はまだ周りにバレていないけど、もし俺と彼女が話している姿を見られたら、絶対に何かしら言われることは目に見えてわかる。

それは俺の平穏を壊される可能性があるし、白雪にとっても気分の良いものではないだろう。

お互いのことを考えるなら、これ以上関わることはせずに、席替えする前の赤の他人の関係こそが最も良い。


(だと言うのに……)


心の底で、離れたくないと思う自分もいる。

彼女の優しさが、荒んでいた俺の心を癒していた。

そんな相手と関わることをやめたくないと思うのは、俺の我が儘で、願望だ。

俺がクラスの嫌われ者…『ハズレ』と言うレッテル貼られたことに文句はない。

むしろ、俺が望んだ立場だ。

ただ、もし…。

俺がもう少し人と関わっていれば、愛想が良ければ、人に誇れる偉業があったなら。

彼女と―――白雪彩華と話していても、何も言われなかったのだろうか?

彼女の隣で話すことを、世間に許されたのだろうか?


(まぁ、そんな机上の空論なんて考えていても、仕方がないんだけど)


今はただ、目の前の問題に取り組もう。

関わり方を考えるとしたら、その後だ。


(ただ、もしもバレることがあって、白雪の迷惑になるのだとしたら…)


俺の出す答えは、決まっている。

白雪のことを周りにバレない程度に見ながら、決意を固めた。

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