11日目 寝坊

あっという間に一週間が経った。

今日から三日間、中間テストが始まる。

この日の為に勉強をしてきた生徒が数多くおり、誰もが最後まで少しでも覚えようと教科書などの参考資料を読み漁っているだろう。

そんな大切な日に、俺は。


「マズイマズイマズイ…!!」


絶体絶命の危機に陥っていた。

全力疾走で歩道を駆け抜けて行く俺に、散歩をしている老人が驚きの目を向けてくるがそんなの知った事ことではない。

何故走っているのかって?

寝坊だよ。

目覚ましのアラームをかけ忘れて、起きた時にはもう学校が始まるまで三十分程度しか残っていなかった。

急いで身支度を済ませ、適当にゼリー飲料を飲み込み、ダッシュで自宅から飛び出した。

よりにもよって、こんな大事な日にだ。

遅れた暁には、そのテストの科目を受けることが出来ずに、0点の扱いになる。

しかも今日の一限目のテストの科目は、一番勉強してきた英語だ。

折角夜遅くまで頑張ったのに、その努力が水の泡になることは絶体に避けないといけない。


「うおおおおおおおっ!!」


脇目も振らずに俺は、これまでの人生で一番力を使って走った。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「ま、間に合った…」


残り十分でどうにか着いた俺は、息も絶え絶えとなっていた。

激しい息切れを繰り返す俺に、すれ違った人が奇妙なものを見るような視線を送って来るが、知った事ではない。

喉の渇きを感じ、バックからペットボトルを取り出そうとするが見つからない。

どうやら、持ってくるのを忘れたようだ。

まぁあれだけ焦っていれば、それも当然だろう。

飲み物を求め、自販機に向かう。

小銭を入れ、光ったボタンを押し込み、天然水の入ったペットボトルを購入する。

すぐさまキャップを回し、口に付けてがぶ飲みする。

ひんやりと冷えた水が、喉を潤し、汗で抜けていった体内の水分を補給する。

漸く一息を付き、休んでいると誰かが自販機にやって来た。


「誰かと思えば拓見君ですか。おはようございます」


「白雪か…おはよう」


軽く会釈をして挨拶してくる白雪。

自販機に小銭を入れ、麦茶を購入した彼女は、自販機近くの椅子に座る俺の隣に腰を落とした。


「どうしたんですか?今日はやけに遅かったですけど」


「…寝坊した、アラームをかけ忘れた」


「私もですけど、何だか最近睡眠関連で振り回されていますねぇ」


(その一つの原因はお前だけどな!)


何て思っていても言える訳もなく、押し黙ることしかできない俺は、適当に相槌を返す。

すると、白雪は顔を近づけ俺の耳元で囁いてきた。


「…また膝枕しましょうか?」


「っ!?」


甘い声が鼓膜を振るわせ、咄嗟に耳を押さえる。

顔が赤くなる俺に、白雪はしてやったりとばかりに、悪戯が成功した子供の様にニヤニヤと笑っていた。


「あっ、今照れましたね」


「照れてない!」


「そんなに顔を赤くしても説得力ありませんよ~?素直に認めてください、『私は白雪さんの言葉に思わず興奮してしまいました』って」


クッソうぜぇ!!

ていうかこんな性格だったか、コイツ?

確かに調子に乗ることは今までもあったけど…今日は一段と腹立つ!


「いや~、拓見君のこんな顔なんて普段は絶対見れないので、無理してでもやった甲斐がありました」


「巻き込まれるこっちの身にもなって欲しいけどな…」


椅子から立ち上がり、勝ち誇った顔をする白雪に苦い表情をする。

と言うか無理していたのかよ…。

よく見れば、彼女の耳も若干赤くなっていた。

何でわざわざそんなことを…?

そんなことを考えていると、白雪はこちらに振り返って、笑いながら告げてきた。


「拓見君」


「ん?」


「今日は頑張りましょうね。大丈夫です、あんなに努力したので、絶対良い成績取れますよ!」


「…あぁ」


白雪の応援の言葉に、胸が少し温かくなったのを感じた。

根拠何てないが、今回のテストは過去一の点数が取れるだろうと思えた。

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