8日目 昼飯②
「はい、どうぞ」
「おぉ、ありがとな…にしても、本当に作って来るとは…」
屋上の日陰のベンチに隣り合って座る俺に向かって、可愛らしいバンダナに包まれた弁当箱を手渡ししてくる白雪に礼を述べながら受け取る。
「そう言う話でしたからね…と言うか今更ですが、アレルギーとかってあります?」
「いや、特にないな」
「なら良かったです。さ、どうぞ召し上がれ」
蓋を取ると、以前と同じく美味しそうな料理で埋まっていた。
白米、肉団子、白身魚のフライ、野菜の煮物が輝いて見える…!
直ぐに割りばしを割って、口の中へと運ぶ。
(やっぱりうまい…)
普段の食事はコンビニ弁当や冷凍食品、インスタントラーメンなどで済ませている俺は、手料理の美味さを忘れていたらしい。
いや、これは白雪の腕があってこそだろう。
こればっかりは頭が上がらない。
一心不乱に食べる俺の隣で、白雪も自分で作ったであろう弁当を食べている。
…時折こちらをチラチラ見てくるので、何か食べにくいが。
そうやって食べること数十分、米粒一つも残さず完食した俺は、白雪に頭を下げ礼を告げる。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした、速いですね」
「そりゃまぁ、こんだけ美味いなら食べるのも早くなるさ」
味の感想を伝えると、白雪は顔を背ける…えっ?
「ど、どうした。何か気に障るようなこと言ったか?」
「…あの、それ素でやってますか?」
「何のことだ?俺は思ったことしか言わないぞ、変に取り繕うのは面倒だからな」
「そ、そうですか…あの、ひとまず白雪が食べ終わるまで、こちらを見るのは少し止めてくれますか?」
「お、おう。わかった」
俺は白雪の反対側を向き、青空を見上げることにした。
にしてもどうしたんだ…まぁ、直球で褒められると照れ臭くはなるだろうけど。
あの反応はなんだか違うような気がする…。
そうして待っていると、弁当と蓋が閉められる音が聞こえてくる。
「…そっち向いてもいいか?」
「えぇ、もう大丈夫ですよ…そう言えば、拓見君の連絡先を貰ってもいいですか?」
「いきなりだな、何で?」
「今日お弁当を作るのに、味の好みとか苦手なものとかを考えるのに少し時間がかかって、前日に聞けるには聞けるんですけど、やっぱり何時でも聞けた方が楽だなと思いまして」
「あー…」
理には適ってる。
でもなぁ…さすがに連絡先はどうなんだ?
SNS関係には少し警戒して関わる必要があるからなぁ…。
(まぁでも、多分平気だろ)
ここ数日関わって分かった、白雪彩華はそう言った悪巧みはしない人間だ。
そうじゃなきゃ、俺みたいな人間にここまで親切にしないだろうし。
「はぁ、分かった。ほい」
ポケットからスマホを取り出し、白雪にQRコードを見せる。
「ありがとうございます…にしても、まさか本当に交換してくれるなんて思いませんでしたよ」
「あんまり気乗りはしないけどな…とは言え、お前なら悪用とかしないし大丈夫だろ」
「…また無自覚にそんなこと言って」
「何か言ったか?」
「いえ、何も…はい、これで交換できましたよ」
手元のスマホを確認すると、白雪の連絡先が追加されて、チャットには『よろしく!』と書かれた猫のスタンプが送られていた。
こういう時は、こっちも何か送った方がいいだろう。
『こちらこそよろしく』…っと。
「ありゃ、普通の文章…どんなスタンプが送り返されるのか、楽しみでしたのに」
「スタンプなんて持ってねぇよ、使えるとしても初期のスタンプだけだし」
「持ってないんですか?では普段連絡する時は…」
「全部文字、それに連絡する相手も母さんだけだし。そもそも母さんしか連絡先持ってなかったからな」
「…ってことは、白雪が家族以外で初めての相手ですか?」
「ん?まぁ、そうなるな」
何だその質問…聞く必要あるのか?
俺が疑問に思っていると、白雪は胸にスマホを当てて嬉しそうに微笑んだ。
「そっか、白雪が初めてなんだ…えへへ」
…俺はその笑みに、思わず硬直した。
女の子らしい柔らかい笑顔は、見惚れてしまうほどに綺麗だった。
「拓見君?どうしました、急に止まって?」
「い、いや。何でもない」
お前に見惚れていたなんて言えるはずもなく、俺は適当に誤魔化して白雪と屋上を後にするのだった。
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