6日目 勉強
「拓見君!勉強会しましょう!」
「…放課後始まっていきなり何だよ」
目を輝かせながら話し掛けてきた白雪に、辟易しながら答える。
「当然、来週から中間テストですので、それの勉強会です…あれ、もしかしなくても、『めんどくせーな』って思ってます?」
「おぉ、当たりだ。それじゃあ俺はここで…」
「ふっふっふっ…」
「な、何だよ。その不気味な笑い声は…」
踵を返して帰ろうとする俺に、腕を組み目を瞑って不敵な笑い声を漏らす白雪に、思わず体が引いてしまう。
「拓見君がそう言うことは想定済みです、そして、それが分かっておきながら対策を立てない白雪ではありませんよ!」
「…ほう」
この俺の対策だと?
常人では考えもしない行動をする、腫れ物代表みたいな俺の?
…なんだか自分で言いながら悲しくなってきた。
「あの、何かすごい悲しそうな顔していますが、大丈夫ですか?」
「こっちのことだ、気にしないでくれ」
「そ、そうですか…では、お教えしましょう。その対策は…このチケットです!!」
「!?そ、そのチケットは…!!」
白雪が鞄から取り出したのは、『六角高校図書館学習スペース予約チケット』と書かれた紙切れだった。
それも二枚。
「白雪に付いて来ると言うのならこのチケットを一枚、拓見君に差し上げましょう。さぁ、どうしま―――」
「行くぞ」
「―――すか…えっ?」
「行く」
俺は白雪の問い掛けに即答して答えるのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「相変わらずでかいなぁ、ここの図書館」
本校舎の少し離れにある、六角高校図書館は四階まで続く大きな図書館だ。
薄茶色や黒色のマットが敷いてあり、歩いても足音がしない。
あちこちにある木造の椅子や机に近づくと、時折、木の良い匂いが鼻を掠める。
とても知的なオーラを醸し出す図書館の中で、改めてその規模に俺は驚いた。
「………」
「…何だよ、さっきからこっちを睨んできて」
「いえ、ただ以前、私が帰りを誘った時には嫌そうな顔をしたのに、今回の誘いには嬉しそうな顔をしているのが複雑なだけです」
「何で複雑なんだ?」
「できる人が限られているであろう可愛いらしい女の子との帰宅よりも、予約さえすれば誰でも取れる、図書館の学習スペースの使用権の方に喜んでいるからでよ!」
「だって実際、こっちの方が嬉しい」
「はっきり言いましたね!?そこはお世辞でも『そんなことない、白雪みたいな可愛らしい女の子と一緒に帰れる方が断然嬉しい』って言う場面では!?」
「言わねぇよ!そんなこと!!」
「すいませーん、図書館の中では大きな声を出すのはご遠慮くださーい」
声を大にして言い合いをしていると、図書委員らしき生徒に注意を受けた。
二人して頭を下げ、図書委員の人に謝罪をする。
「…まぁ、もういいです。目的地に行きましょう」
「あぁ、そうしよう…と言うか、よく取れたな。このチケット」
ポケットから取り出しチケットを見つめる。
ここの図書館は最新の設備と物静かな雰囲気から、全学年の男女を問わず人気がある。
特に最上階にある勉強スペースは、完全個室で騒音対策、暖房、冷房も調節でき、プライベート防止ようのカーテンに鍵付きのドアが備わっており、テスト前は特に人気のある設備だ。
その為、使うには予約が必須で空いている時期なんてないようだ。
しかも、このチケットの期限はこの一週間。
一番忙しい時期に、よくもぴったり取れたなと素直に感心した。
「今年の四月から、この時期に合わせられるように予約していたので…それでもかなりギリギリでしたけど」
「マジか、やっぱり人気なんだな…にしても何で二枚も取ったんだ?」
「その、一人でここに来るのは少し緊張して…誰かと来ようと思って二枚予約しました」
「ふーん…」
でも、何で俺を誘ったんだ?
こいつのことだから、友達は腐るほどいるだろうに…。
(『俺に興味がある』って言っていたけど、本当にそれだけか?何か他に別の目的が…何のために?駄目だ、考えれば考えるほどわからない)
「あっ、着きましたよ」
そんなことを考えていると、四階に着いていた。
四階は完全に勉強スペースとして使われており、置いてある本の冊数も他の階と比べて少ない。
なんで俺を誘ったのか気になるけど、今は勉強に集中しよう。
俺だって好き好んで成績を落としたくはない。
「もうほとんど埋まってるな…俺の部屋はあっちか」
「私はこっちです、完璧に真反対ですね」
「だな、まぁ関係ないか…そんじゃ、頑張れよー」
「この前授業中に寝ていた拓見君には言われたくない台詞ですね…居心地がいいからって寝ないでくださいよー」
「へいへい…」
部屋に入り冷房を付けて、鍵を掛けて、カーテンを閉める。
今日から、ここでしばらく勉強するのだ…折角、白雪が苦労して手に入れたチケットを無駄にはしないように。
「ま、ぼちぼち頑張りますか」
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