4日目 体育
あの後、冷静になった俺は白雪と話し毎日弁当を作ってもらうのは流石に悪いので、一週間に一回にしてもらった。
白雪は『別に罰ですし、私がやりたいだけなので、気にしなくてもいいんですけどねぇ』なんて言っていたけど…と言うか、これって本当に罰なのか?
いやまぁ、栄養バランスが終わっている俺からしたらありがたいんですけど。
「まぁ…そんなこと…考えても…仕方ないか…白雪が…いいって言ってるなら…そのご厚意に…甘えますかね」
息を切らしながら独り言をぼやく。
何で息を切らしているかって?
そんなの走ってるからに決まってんだろ。
この高校…六角高校の体育の授業は、基本的には種目を選択して取り組むことになっている。
やりたい種目をそれぞれ選び、方針を決めて活動する。
そんな中、俺が選んだ種目はと言うと…。
「走るだけで終わるなんて、素晴らしい」
持久走です。
…言っとくけど、結構楽だからな?
走るスピードは自分で決められるし、いつ休むのも自由。
それに走るってのは、どのスポーツにも活かせる。
サッカーだろうが、野球だろうが、バスケだろうが。
体力も付けられるし、日常生活でも使うことがある。
そして何より!
「選ぶ人が少ない!!」
少ないというより、ゼロだ。
誰も選ばないから、先生も成績を付ける対象が俺しかいないから、誰かと競わせるてそのタイムで決められない。
極端に高くなることもないが、低くなることもない。
誰もいないからうるさくないし、競うこともない。
ここが俺の
「って、なんでこんな説明っぽいことを…」
唯一デメリットを上げるなら、考えることがないから思考が暇だということだ。
授業中だから音楽も掛けられない。
そのせいで、時々おかしなことを考えたり、独り言を話したりする。
「そういや、かれこれ十分以上は走ってるな…一回休憩するか」
走るのを止め、ゆっくり歩きながら水道へと向かう。
蛇口を捻り、流れていく水を飲み干す。
「…プハッ!意外とここの水うまいんだよな。普通こういうところの水はマズイはずだけど」
でも少し温い…どうせなら冷たい飲み物を飲みたい。
そんなことを考えながら、タオルで汗を拭いていると、後ろからヒヤッとしたものが首元に当てられ、思わず飛び跳ねた。
「うおっ!」
慌てて後ろを振り向くと、そこには天然水の入ったペットボトルを持った白雪がいた。
「やっと気づきましたね…にしても何ですか『うおっ!』って魚でも食べたいんですか?」
悪戯が成功した子供みたいに笑いながら、ペットボトルをこちらに渡してくる。
「はい、上げます。笑わせてくれたお礼です」
「あ、あぁ。ありがとう…?いや待て、いつから居た?」
「拓見君が水を飲み始めたあたりからですかね?自動販売機で飲み物を買ってきた帰りに見かけたので、前の件の仕返しも含めて、驚かしてやろうかと」
「そ、その節は大変申し訳ありませんでした」
頭を下げ再び謝罪を述べる。
と言うか、『水を飲み始めたあたり』ってことは…。
「もしかして、聞いてた?」
「?…あぁ『意外とここの水うまいんだよな。普通こういうところの水はマズイはずだけど』って言っていたところですか?聞いてましたよ?」
…俺は顔を手で覆った。
「ちょっ!どうしました、いきなり顔を隠して?」
「いやだって、独り言を聞かれるのなんか恥ずいし…」
「あぁ、成程…気持ちは分かります。白雪も偶に独り言を言いますし…」
…最悪だ。
落ち込む俺を見て白雪が少し慌てながら、慰めの言葉を掛けてくる。
「だ、大丈夫ですよ!別に誰かに言いふらしたりなんてしないですし!」
「あぁ、うん…」
「そ、そこまで気にします?」
白雪には悪いけど、俺はこういうの引きずるタイプだからなぁ…。
直ぐに切り替えることはできない。
「あの…なら、白雪も何か恥ずかしいことしましょうか?」
「…いや、何で?」
普通に何で?
どうしたらその考えに行きつくんだ?
「い、いやだって、白雪のせいで拓見君は傷ついたので…白雪も何か火傷すればいいかなと」
「わざわざ自分で火傷しなくても…因みに何をしようとしたんだ?」
すると白雪は途端に挙動不審になり、顔を赤らめてモジモジし始めた。
「えぇと、それは…その…」
「な、何でしょう」
やめてくれ、そんな態度されるとこちらもどんな反応すればいいかわからなくなる。
こっちも年頃の健全な男子高校生だぞ?
その動きは、その…とてもセンシティブなのでよくないです。
そんなことを思いながら、待つこと、数十秒。
意を決したように顔を上げた白雪は。
「………や、やっぱりなしで!!」
「なし!?ここまで引っ張いといて!?」
「あ、あーっと、そろそろ戻らないとなぁ。みんな心配してるかもしれないし!ということで、また後でー!」
「あっ、おい!…はぁ」
何だったんだよ、本当に…。
いやまぁ、白雪のお陰かどうかわからないけど、さっきまでのことがどうでもよくなった。
「走るか…」
結局、走っている間は白雪が何をしようとしたのかについてずっと考えていた。
※因みに、彼女の顔は体育館に戻っても赤いままでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます