2日目 授業中

(まぁ、そうは言っても、関わることなんてないだろ)


翌日、一限目の英語の授業中に、そんなことをぼんやりと考えていた。

昨日はいきなりのこと過ぎて、面を食らったが一日もたてば冷静になっていた。

普通に考えて、俺と彼女―――白雪彩華が話すことなんてないだろう。

片や学校の嫌われ者、片や学校のアイドル。

万が一にも、話すことはない。

白雪の奴だって、俺の通り名を知らなかっただけで、後々から友人に話を聞いた可能性だってある。

昨日は同じアニメを見ている奴がいるだけで舞い上がっただけだろう。


(よって俺と彼女が関わる確率は0%!俺の平穏は保たれたのだった)


俺は教師が黒板に書いた英文をノートに板書しながら、そうやって結論づけた。


「はい、じゃあこの英文の意味を隣でペアを組んで相談し合ってください。制限時間は三分です」


(出たよ…)


女教師の特有の、甲高い声から出された指示に俺は辟易した。

この手のものは嫌いだ。

無作為に指されるから、バックれて眠ることができない。


(えぇと、出された英文は…やべぇ、分かんねー…)


もともと英語が苦手な俺にとっては、非常にマズイ状況だ。

どうしたものかと考えていると、隣から服を引っ張られ…?


「拓見君ー、聞いていますかー?」


「うおっ!白雪!?」


横に目を向けると、こちらに少し身を乗り出しながら少し不機嫌そうな顔をした白雪がいた。


「やっと反応しましたね。さっきからずっと声掛けているのにうんともすんとも言わなかったので、心配しましたよ?」


「あ、あぁ。悪かった?」


待てよ、つい流されそうになったが、これは俺が悪かったのか?

俺が話されても無視するのは、当たり前のことじゃなかったのか?

そうやって思考を巡らせる俺に、白雪は頬を膨らませた。


「またそうやって、無視して…言っときますけど、多分拓見君指されますよ?」


「えっ?」


「だって先生、拓見君のこと見てますもん」


首をぎこちなく動かせながら、教卓の方面を見る。


「…うわっ、本当だ。なんか睨んでる」


赤い眼鏡を掛けた女教師は、元々のつり目を更に上げこちらを睨んできていた。

苦手なんだよなー、あの教師。

いちいちチクチクした言葉遣いしてきて、何かやけに俺への当たり強いし…。


(って、そんなこと考えてる場合じゃない。ここで間違えたなら、さらに説教食らう羽目になる!)


必死に英文の意味を考える俺に、白雪は突如俺の体を少し強めに押してきた。


「なっ、何だよ。白雪」


「『インターネット上のブログで交換プログラムに関する記事を見つけました』」


「へっ?」


「答えです、この英文の」


「はい?」


「そこまでです!」


どういうことなのかと聞こうとするも、女教師がそれを遮った。


「それではこの意味を…風間、答えてください」


さっきまで騒がしかった教室がいきなり静かになり、クラスの奴等がこっちを見てきた。

仕方なく席を立つ俺の心境は穏やかじゃなかった。

案の定指してきやがったこの教師…!

なんだよ、この前あんたの授業で寝たのが悪かったのか?

言っとくが、その時寝ていたの俺だけじゃないからな?


「どうしたのですか、早く答えてください?」


(っと、そんなこと考えている場合じゃない)


答えを早く言わないと…えぇと、確か白雪の奴は確か…。

いや待て、この答えは信用できるのか?

白雪の奴が他の奴等に頼まれて嘘の答えを言った可能性も…。


(でも、他に答えることもできないし…クソっ!)


こうなりゃ自棄だ。

どっちに転ぼうがもう知らん!


「い、インターネット上のブログで交換プログラムに関する記事を見つけました…です」


物音一つしない教室に俺の声が響く。

ど、どうだ?

俺がドキドキしながら教師の回答を待っていると、思惑が外れたようながっかりとしたため息をついた。


「…正解です」


(あ、あっぶねぇぇぇぇぇぇー!!)


胸を撫で下ろしながら席に座る。

焦ったー!

終わったと思ったじゃねぇかよ!

って言うかなんだよ、そのあからさまな残念そうな顔!

外れて欲しかったのか?

だとしたらふざけんな!このクソ教師!!


「………」


「な、なんだよ」


隣から感じる視線に目を向ければ、白雪が何かを言いたそうな顔でこちらを見ていた。


「まっるきりコピペしましたね、白雪の回答」


「うっ」


痛い所を突かれた俺は、思わず小さく呻き声を溢す。


「何か言うことありませんか?」


「…その、助かりました。ありがとうございます」


頭を下げ感謝を伝えると、白雪は笑顔になった。


「どういたしまして、また困ったら何時でも聞いてきていいですよ?」


「そ、それはなるべく遠慮するわ」


そんな俺の願いも空しく、その日は問題の解答に悩む俺を見て白雪が答えを教えてくれるというサイクルが誕生してしまった。

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