隣の席のハズレ枠と当たり枠達

オク

1日目 席替え

学校生活、青春に溢れた青年達の宝の時間。

勉強、部活動、行事、友情、恋愛…様々なイベントに胸が高鳴らせる人が大半だろう。

だがそれらは何れも、学校は誰かとやらせることを強制させる。

授業では班を組ませ、部活動は試合などで他人と競争させられ、行事はクラスで纏められ…。

俺は…風間拓見かざまたくみはそんな学校生活が嫌いだ。

碌に話したこともない人物と話をさせられ、競わされる。

コミュニケーション能力が乏しく、うるさい奴らが苦手な俺にとっては、一種の拷問だ。

そんなことを黙って耐えるなんて御免だ。

だから、反抗することにした。

隣の人と話されるように指示を出されても、寝る振りをして話せなくした。

班を組んでも考える振りをして無視を決め込んだ。

部活動には所属せず、学校が終わったらすぐさま帰宅する。

行事は休み、そもそも参加することをしなかった。

そうやって他人との関係を徹底的に絶った。

いつしか付いた呼び名は『ハズレ』。

限られた学校での時間に水を差す存在だから『ハズレ』。

クラスの誰もが、遠巻きにした。

俺に話すことをしなくなった。

何とも思わなかった、むしろありがたかった。

俺の平穏は完全に守られた。

ずっとこうやって学校生活を送っていくのだと思っていた。


「はーい!今日は席替えするぞー」


「っしゃぁ!」


「せんせー、俺は後ろの席を希望しまーす」


担任の声で俄かに騒がしくなる教室。

あちらこちらで騒ぐ声が聞こえてくる。


「はいはい、静かにー!昨日もう席は決めといたから、この紙の通りに席替えするんだぞー」


黒板に紙を張り出し、磁石で固定する。

わらわらと集まるクラスの連中を見ながらも、俺も席を立って結果を見に行く。

正直、席替えもあまり乗り気ではない。

いちいち座る場所を変えるのはめんどくさいし、周りに騒がしいのがきてもいやだからだ。


(わざわざ定期的に変えなくても、一回クラス全員の意見を聞いて決めればそれで済む話だろうに)


そんなことを考えながら、紙を見終わった奴らから順に自分の席に戻り、机と椅子を動かしていたので、俺も漸く見ることが出来る。

…何人か俺の方を見てあからさまに嫌な顔をしたが、無視することにした。


「さて、俺の席は…」


紙を見ながら、自分の名前を探す。

しばらく探してようやく見つけ出した。


(窓側の一番後ろの席…まぁ、当たりか)


確認して自分の席に戻り、机と椅子を動かす。

新しい自分の席に着きそうなタイミングで、隣の席の奴を見て、いやな気分になった。


(最悪だ…よりによってなんでアイツが…)


白髪のミディアムヘアーの美しい美貌を持つ女、白雪彩華しらゆきあやか

容姿端麗、才色兼備、学校のアイドル的存在なのが彼女。

明るく優しい性格の彼女は学年関係なしにモテて、告白された回数は数知れず。

そんな彼女と俺が隣の席…男から変な妬みを買わなきゃいいが。

とはいえ、俺のやることは変わらない。

いつも通りにするだけだ。

机と椅子を置き、席に座る。

外の席でも見ようかと思った時、突然、隣から声を掛けられた。


「拓見君!」


「!?」


声を掛けた人は勿論、白雪彩華…えっ?


(は?俺、今、話し、かけ、られ、た?)


脳の理解が追いつく前に、白雪は話を続ける。


「そのバックに付いているキーホルダー…『にゃん太』のですよね!」


「えっ?」


にゃん太とは、『にゃん太の飼育記』という猫のほのぼの観察日記アニメのキャラクター。

俺がよく見ているアニメなんだけど…。


「えっと、そう、だけど」


「やっぱりそうですよね!白雪も見ています、すごく和むのでくたびれた心を癒してくれて…」


(いやいやいや…)


火が付いたように一気に捲し立てる白雪を見ながら、俺は状況を整理する。

にゃん太を見ている?

あのアニメかなりマイナーで、原作のライトノベルも本屋に全然置いていないから、毎回ネット注文する必要があるあの作品のファン?

彼女が?

訳が分からずにボーっとしている俺に気付いたのか、ハッっと我に返った白雪。


「す、すいません。まさか近くに『にゃん太の飼育記』を見ている人がいるなんて、とても珍しくて…つい興奮してしまいました」


頬を少し赤らめながら謝ってくる白雪。


「い、いや気にしないでくれ。俺も見てる人がいるなんて思わなかったからさ」


「そうですか…あの、拓見君!」


「は、はい」


「これから一か月間、よろしくお願いしますね!」


そうやって微笑んだ彼女の笑みはとてもきれいで、つい目を奪われた。

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