おうちの鬱子ちゃん

藤川麻里佳

第1話

 まったくもって不快である。この不快さを改めて言葉にするのも腹立たしいし、眉間の奥の頭蓋のどたま、そうそれ。それがもう、使い物にならなくてクソ。うまく舌が回らない。音声に乗せれない。誰にも知られない自分。いない。

 小さな筋肉を動かすごとに、血潮の通り抜ける音が聞こえてくる。窓の外の音は何も聞こえない。代わりに耳鳴りが遠くでする。明るいのに、重たくて、指でなぞってダイイングメッセージを書くこともできない。骸だから、そうだから。

 生とか死とか疲れました。このままいけば餓死するし。問題は、あと何日食べなければ死ぬのかを、事前に調べてなかったことだ。多分今で二日。目を開けるのも、画面を見るのもめんどくさい。

 床に沈んでる。フローリングはもう冷たくない。一緒になって、沈んでる気がする。

 今更。自ら死にに行く気力もないよ、指も足さえ動かないのに。みんなすごいな、勇気ある。

 あかる。やだな。寝たままでじんわりうずくまる。幼虫、でも、羽化しない。

 鐘が鳴る。遠くで、近くで、ずっと。

 水に沈んでいく。土に埋まっていく。

 重力が強い。どこも動かない。

 いま、いまなのか?

 それがいい、いまだよ。

 寝て、起きた。ああ、生きてる。

 まったくもって不快である。

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おうちの鬱子ちゃん 藤川麻里佳 @marika_writing

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