昔々あるところに

 数ある大陸から離れ、海に阻まれた島に国がございました。

 小さい島ながら、ひしめき合うように4国が存在し、一ノ国は武・二ノ国は智・三ノ国は術・四ノ国は総、それをまとめるは四ノ国頭。

 武・智・術はそれぞれその名の通り各々が特化した能力を有し、更にその一国を統べる者は頭を名乗る事を許される。


 三国の総合した能力である総は他に分類出来ない特殊な物であるが、どっちつかずな能力と言った立場でった、極めし者 総頭 を除いては。

 総頭の納める国はそれはそれは穏やかだったと言う。

 智と術から暗夢の双子が産まれ堕ち、終結の国物語が始まるまでは。


 双子は白銀髪に暗黒髪と対照的な色をした見目麗しい娘であり、その性格も髪色と同じだと伝え聞きます。


「ねぇ、黒ちゃん楽しい?」


「楽しいってなぁ〜に」


「さぁ〜?なんだろね」


「?」


 "黒ちゃん"と呼ばれた女の子は感情を含んでいないような顔と平坦な声で、対照的に"白ちゃん"の微笑むように優しく問いかけられた内容に答えになっていないような返答をする。

 

 その国では女性が真の名を持つのは高貴なものに限られ、大体は役職や事柄、関係したものの名が多く、二人も同様であるが、黒百合と白百合と呼ばれることをそれなりに気に入っている。


「私ね、そんなに楽しくないの...許せない」


「どうして?」


「ふふ、気にしないで」


 言葉で表すのが難しいぐらいに、憎いといった感情を抑える事が出来ないと顔に出すが、瞳に映るものを見て愛しくてたまらないといった表情になる。


 この国は平穏であるが、平和などではない。

「邪獣の脅威があるから?か、まあ、それもあけど、今はもうほとんどいないから大丈夫よ。本当に怖いのは人間よ。はっはっはぁー、可愛い娘達を食っちゃうぞー」と大そう楽しそうにしていた母様は九歳になった年にいなくなった。


 きっと私達が嫌になって出て行った、きっとどこかで生きている。と言い聞かせて現実から目を背ける。


 物語の明確な始まりは今より五年後となるが、その片鱗は生まれてから今までの十年間、ずっと現れ続けていたのかも知れない。今となっては誰もわからない事。


  十五の神花儀月しんかぎつきにより異質な者が照らし出されたと同時に帷が降りる。

 

「黒ちゃんが...結婚..」

 

「そうでございます。そのいし...失礼、その特殊な力をみそめられ、武頭様に嫁ぐこととなりました。」


 神花儀月 - 十五歳、それは心力と呼ばれる能力が発現する年とされており、年内に二回執り行われる。また、その善し悪しでこれよりの先の人生に大きく関わり、それは啓示の巫女により示される。


「もう、いいや」

 

 取り繕いもしない侍女の言葉に、儀により無能の烙印をおされた白は怒りより先に呆れた様に呟く。最愛の人を奪う世界が薄くなる。


「ですから、聞いておいでですか...これ..だか..むのう...」


 侍女の声が口窄んだように消えて無くなる。しかしそれは声量ではなく、白の他者への元々薄かった関心が完全に無くなったからである。


「もうすぐだからね」


 撫でられた黒は、白の膝の上で目を細めて、喉まで鳴らしていそうな様子はさながら猫のようである。


 二人だけになれた世界に、雑音が紛れ込む。


『伝来、伝来

 邪獣 襲来 数未知数

 武頭並び智頭 死去 総頭 安否不明 

 術頭 指揮によ...』


 繰り返される雑音は途中から途切れ、先ほどより赤が目立つ部屋で、撫でるのを再会する。


「白楽しい?」


「うん、とっても」


 いつの間にか起きていたのか、足元からの声に満面の笑みで答える頬に、透明な線が入っているのは嬉しみ故かそれとも...


「なら、良かった」

 

 白の頬を撫でた後に黒は微笑む。


 二人には喜劇、世界には悲劇の始まり始まり


 

 

 

 

 



 


 

 


 

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