今までと これから 昼食

 肩口まで切り揃えられた艶やかな黒髪に切れ長な目、そして深いマゼンダ色の瞳は心の中を覗かれているように感じられる....綺麗だな。


「ねぇ大事な話してるんだけど、もしかして見惚れちゃった?」


 綺麗な顔だと思うが、見惚れてはいないし、話もしっかり聞いてる。


「昼食何食べるかってはな...」「絶対に違うよね」


 途轍もない圧を一瞬感じたが、すぐに茶化すように呆れた顔をされる。


「君思ったより図々しいね、安心したよ加点ね」


 昼食にしようと微笑みながら加点される。


 あれ?減点じゃ無いんだ、これもしかして...死刑メーターだったりする?


「できてるでしょ?ここで食べるから準備してもらっていいかな」


 自分の背後にある部屋の角に微笑みながら話しかける、何かを探るような瞳になぜかゾッとするものを感じる。


「はい、直ちに」


「ありゃ、そっちだったか」


 気配を察知するのが苦手と頭を掻きながら、短めな髪をしたメイドがベットの横に備え付けられている長机へ運んでくる料理を眺める。


 メイドさんの気配が割と察しにくいけど、流石に的外れ過ぎる。


「まあ、長くなるし食べながら聞いてよ」


「いや、食べないし、帰るよ」


 色々としてもらいながら、図々しいと言ってて思うが、それどころではない。それでも、目についたとても美味しそうなケーキに魅了され、手を伸ばす。


「ん?減点かな」


 ケーキを上げてニコニコしている。


 いゃー、さっきと違って元気そうですね、まあ必死に取り返すんだけど。


「焦り過ぎ、大分と食い意地はってるねぇ、これはお仕置きが必要だね」

 

 どうにか取り返そうと、ベッドに座ったまま、手を伸ばしもがく姿は赤子のようで、側から見るととても滑稽であるが、本人はいたって真面目そうである。


「返して」「だめ」


 拉致が開かない…いや、これしかないな。従順にベットに座っているだけでは無理だと、その場に立ち上がってそのまま踏ん張って飛べばなんとかなるはず。


「はい、残念」


 なんとかなりませんでした。起き上がった時にまるで足に力が入らず、躓いて尻餅を着く。それと同時にマゼンダ色の瞳と水色の瞳が、ぶつかりそうな位置にある事でやっと押し倒されていると理解した。


 え...押し倒されてる!?やばい、顔近い。ふわっと花のような香りをほのかに感じるような。


「あんまり動くなって言ったよね」


「ご、ごめん」


 咎めるような顔をしたけど、すぐにニコニコと子供のような顔をして近づいてくる。


「お嬢様、おいたが過ぎるかと」


「あ、ごめんごめん」


 服装を正しながらこちらに微笑みかける姿はなんというか、色々と洗練されている。


「じゃ、食べよっか」


 ご飯は美味しくいただきました。流されやすい性格はよくないと思う所です。

 

「ふんで、話初めてもいいかな」


「はい」


 ここまでされておいて、帰りますはもう通じないと思った次第です。


「はーい、えらいえらい」


 ガシガシと頭を雑に撫でられるが、懐かしい感じがするので甘んじて受け入れる。それでも少しの抵抗として睨みつけておく。


「うわー、怖い怖い」


 微塵も思ってないだろおい。


「君と話すと脱線してしまうから困ったな」


「誰のせいですかね」


「まあ、聞いてよくだらない昔話を」


 どこか遠い場所を覗くように昔話が始まった。







 あれ、ケーキどこいきました?

 


 


 



 


 


 







 

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