今までとこれから 

 最高と最悪をごちゃ混ぜにした夢は頭痛と吐き気を催し、治るのを願いながら首飾りを触る。

 

「だぃ...じょ ぶ」


 音が泡になって消える。暗く深い海の中に手を差し伸べ、まるでクラゲが崩れてしまわないように包み込むように包み込まれる。


「た、たぁ たすけて、助けて、助けて」


 それを手繰り寄せる様に強く握り抱かえる。


「大丈夫だから」


 慈愛に満ちた優しい声に誘われて薄らと目を開く。


 え?なんでいるの?


 死闘を行った相手が目の前に現れて飛び起きようとする。


「待った、動くな傷口が開く」


 その動きを見計らった様に、静止させられ、手を引っ張られる。こちらを気遣った言葉に驚きつつも、それにしっかりと従う。


「従順なのはいい事だよ、さらに加点だね」


「加点ってなんのこと?」


「まぁ、いいじゃん」


 ニコニコと楽しそうにはぐらかされ、一向に答えてくれないため、その件は取り敢えず置いておき、次に気になったことを聞く。


「ここは?」


「ここは私の家の病室だよー、倒れたから運んできたんだよ」


 敵に対して取る行動か疑問に思ったが、何か目的があると思い黙り込む。


「いやいや、そんなに悩まなくても、深い意味はないよ」


 追い討ちをかけるように訳がわからない事を言われたので固まってしまった。


「あ、もう離しちゃうの?」


 固まっている内に、ずっと両手を掴まれていることに安心して忘れてたから、驚いて離すと悲しまれて、反応に困ってしまう。


「え?」


 もう一つ驚く事があった、右手が治ってる?もう使い物にならないと思っていたため、嬉しい誤算ではあるが、なんで完全に治ってるのか不思議に思う。


「あー、治しておいたよ!魔法筒をめちゃくちゃな使い方するから、焦ったよ」


 簡単な事のように言うが、電撃系魔法と磁石を使用した装置で射出された弾の威力は計り知れない。その代わり筒が暴発するため、使用者の接触部位の細胞が死に絶えるため、回復する事は不可能なはずだ。


「これじゃあ回復じゃなくて、再生みたい...」


「知ってるかもだけど、私はクレオメだよ、あなたのことはキョウって呼ぶからよろしくね!」


 呟きの返答はなく、急遽始まった自己紹介を考え込んでいる頭で聞き流し、ただ頷くことしかできなくなってしまった。


「冒剣者なんだね」


 こちらの首元に手を伸ばしながら問いかけるクレオメの手に気づき遠ざける。


「けち」


「いや、冒険者の方だよ」


 膨れるクレオメを無視して、話を続ける。


「ふーん、でも国を守るのに冒"剣者なんてつけるって皮肉かな?」


 冒の意味をそのまま聞けば皮肉のように感じるが、元々は冒険者から転じた名残であるらしいなど話をしていると。


「お嬢様、本日はどうなされますか」


 病室の扉がノックされ、閉じられた扉の裏側からどちらかと言えば若そうな少し枯れた女の声が聞こえる。


「うーん、今日はお腹痛いかも」


 まるで痛みなど微塵も感じて無さそうだし、第一あんな戦い方しておいてお腹の痛みを感じるかも甚だ疑問に思う。


「お大事になさってください」


「うん、例の件もよろしくー」


 それ以上返事はなく、主人の言葉を聞き立ち去ったのか、気配が消えたように思う。


「じゃ、本題に入ろうか、裏ギルドの掲示板でトップの大悪党様ってのは濡れ衣って話」


 話の内容に合わない笑顔のまま、話し始めるクレオメの顔をまじまじと見つめながら聞き入る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る