悪夢

 ビックスに案内されたのはギルドのに埋設されている試験場と呼ばれる場所だ。ちなみにブロクは来るなと釘を刺されているため、ここにはいない。


「実力が無い場合は不採用だ、受かったとしても依頼に失敗したりしたら、おめーに請求がいくからな」


「はい」


「お前みたいな奴を入れるのはここぐれーだろーないいぜ、試験してやる」


「ありがとうございます」


 優しかった雰囲気は微塵もない状態に弱々しくなり、辛うじて挨拶ができる状態になってしまうが、色々と良くしてもらった事に、そして今の状況に感謝する。

 今は貸してもらった服ではなく、ここにきた時のボロボロの服と、短剣2本を装備している。


「試験を始めるぞ」


 合図とともに短剣を握りしめて、勢いよく駆け出す。ビックスは振り上げた大型の長剣を勢いよく斜めに斬り込む。


「甘いぞ」


 空を斬ったのをチャンスと思い切り込むが、長剣を捨て、足を掴まれそのまま壁に向かって投げられる。


 遠かった壁が、あっと言う間に近づき激突する。受け身を取れたことにより、ダメージはないが、そこに長剣が迫る。


「防戦一方で何ができる、なんの役に立つ」


 何もできない事、二人の役に立てないことに、悪い夢の中で逃げている気分になが、歯を食いしばって隙を伺う。


 中央に向かって逃げていたはずが、気づけば壁際に追いやられる。


 攻防の中で限界に近づいた体は自分の足を絡めとり、転んでしまう。


「終わりだ」

 

 ビックスが斬り込んだのは、首ではなく壁であり、大きくめり込む。


 「なんだと」


 回避したからではなく、壁にめり込んだ事でさえ囮に使った、ビックスの腰に隠していた剣で行った攻撃を流し、残った方の短剣を首元に当てられた事にである。


「やられたな、完敗だ」


 どこか残念そうな、しかし嬉しそうに微笑みかける姿に、さっきまでのは演技だと確信し、微笑み返そうとするが、体に力が入らず倒れてしまう。


「やりすぎだっつのバカが」


 どこから見ていたのかわからないが、ブロクが駆け寄りビックスを罵倒する。


「い、医者か?回復薬か?」


 慌てふためく大男の姿はちょと見ていて面白かった。そんな心地が良い中に意識が落ちて行く。


「よっ、おはよう。調子どうだい?」

「あ、ビックスは俺がしっかりと締めといたから安心して」


 気がつくとベットに寝かされており、起き上がったことに気づいたのか、ブロクが話しかけてくれる。そんな暖かさに嬉しくなって、目頭が熱くなる。


「ありがとう」


「おう、任せな!もうちょいしたらビックスもくるから、仲良してやってくれ」


「うん!」


 ビックスになんて声をかけるかウキウキしていると、扉が開く。それに合わせて驚かせようと扉に駆けよった。


 「ビ、ビックス?ど、どぉしたの!?」


 扉の前には全身ひどい怪我で、血まみれで、青白い顔をしてまるで死人のような状態のビックスに手紙を押し付けられる。


 「ねぇ、え?あれ?」


  状況が理解出来ずに、手紙に視線が行ったが、すぐにビックスの方を向き直すと居なくなっていた。もちろん、振り返ってもブロクもいない。


 冷や汗が止まらなく、胸の奥から何かが出そうな最悪な状態で手紙を開ける。


 そこには二人の死去とギルド売却について書かれていた。


「ああぁぁあ」


 頭が割れるように痛み、歪む世界の中で二人との繋がりの証である首飾りをを触り続ける。

 

 


 

 



 


 

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