気づけばそこに居たような気がする。


 心の芯まで冷える様な雨が止めどなく降り続けるが、動じる事なく"万事屋会"の前に立ち尽くす。


「よぉガギ、俺ん家の前で何してる」


 赤茶色の癖のある髪と髭を胸の上辺りまで蓄えた大男が笑顔で話しかけてくる。


 踵を返して立ち去ろうとすると、大男に襟元を掴んで持ち上げられたので、足がぷらぷらする。

 

「まぁ、待てって、取って食おうってわけじゃねーから」


 体格と相俟って"取って食う"の言葉に体に力が入る。


「バカ、あんたにビビってんじゃねぇーかよ」


 大男の頭を叩きながら話す、金髪の男はこちらに向かって微笑み、中へ入るように促す。


「この無駄にでかいおやっさんがビックスで、俺はブロクってんだ、よろしく」


 軽い自己紹介をされるが、状況が理解出来ずに黙り込んでしまう。そもそも名乗る名前がない。


「まあ、まずは風呂だな」


 襟を掴まれたまま家と呼ばれる場所に入ったが、広い空間が広がるだけで、家具などはもちろん、他にも何もない。


「いやいや待て待て、あんたも一緒に入る気じゃねぇーよな」


「そうだ?何か変か?」


 おかしい部分が分からずにビックスが首をかしげている。その姿を真似して自分も首をかしげる。


「一緒に入るような年でもねぇだろうし、だいたい...」


 首をかしげる二人組に言葉を詰まらせたように黙込む。


「ビックスよぉ察しが悪ぜ、君も一人で入れるだろ?着替えはこっちで準備するから入ってきな」


「ありがとう」


 掠れた小さい声で挨拶し、短く会釈する。


 気づけば二人の優しさに甘えて数日間過ごしていたが、事情などは聞き出されず、一度帰る場所があるのか確認された時以外は何も聞かれてない。


「どんな感じだ?」


「ギルド設立の目処は立った、半年後を予定してる」


「やっとかよ、なぁーがかったな」


 二人の会話を邪魔しないように話を聞いてるとギルドと言うワードが出る。


「ギルドって何?」


 聞き慣れないため思わず聞き返してしまう。


「ん?あぁ、ほらあれだよ」


 ビックスの説明によると冒剣者が国営に対して、冒険者は民間業で、冒険者組合で斡旋した仕事の分配先の一つとして登録する事がギルドらしい。


「ま、気にすんなって、いつまででも居ていいからさ」


 自分が邪魔になってないか、何か役に立つのか思案していたのがブロクに見透かされる。


「手伝わせてください」


「駄目だ、ガキがいたら邪魔だ」


「おい、ビックスそんなぁ言い方ねぇんじゃないか!」


 やはり自分は邪魔なんだとビックスの雰囲気がガラッと変わって思い知らされ、逃げ出したくなる。

 でも、庇ってくれるブロクを静止しビックスに向き直り宣言する。


「試験をしてください、必ず役に立ちます。」


 宣言した時にビックスの顔が綻んだ様に感じ、二度見してしまう。


「良かろう、ただし甘くないぞ」


 威圧的な雰囲気がそのままのため、やはり勘違いだったようだ。


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