長い一日 真夜

 二つの満月が映える綺麗な森の中、熾烈な戦いが続いている。

 

 思ったよりも組合の羽振りが良かったため、手元に残る報酬を増やそうと、短期戦に挑んだのが仇になった


「うむ、これはこれは興味深い」


 女にしては低い声で、学者のような言い回しをしながら頭から短剣を抜き放ち、こちらに近づいてくる。


 頭の中には「なぜ?」「人間なのか?」

「残った方法は?」といった疑問ばかり浮かび行動に移すことができない。


「あれ?もう終わりかな?」

「おーい、凄い顔になってるよ?」


 惚け顔になった女から、顔のことを問われた少年は慌てて顔を触り、先ほどまで付けていた仮面がない事に気づく。


「あーいやいや、言葉のままに受け取らないでくれ、表皮のことではない」


 言葉を交わそうとする女に対し、頷かず、ただ機会を待っている。


「いや〜、よかったよ!あれを見た後はみんな話す気も、戦う気も無くなるみたいだからさ」


 ひらひらと切り飛ばされた自分の右手を右手で左右に動かして悪戯子みたいに笑って見せる。


「...な、何が、面白いんですか?」


 その光景に恐怖を覚えながらも仮面をつけるが、無意識の内に敬語を使ってしまう。


「そのままの方が好きですよ!」


「意味がわからない」


「そうですか、、、」


異常なまでに口角を吊り上げながら一歩先まで近づいてきた女から距離を取り、鞄からとっておきを取り出す。


「まあ、自分自身でもあんな事を言うなんてびっくりだ!」


 女は少年の動きに顔色一つ変えず、口調には一貫性が無く、意味不明な言動を繰り返す割に隙のない動きに困惑しながらも、一撃お見舞いすることができた。


 女は上唇より上を吹き飛ばされ、残った顔部分は真っ赤に染まった歯と舌が剥き出しの状態で、立っており、背後の木々に直径15㎝程の穴が空いている。


「ありえない...」


 残った顔の部分がヒクヒクと小刻みに動いており、話そうとしているように見える。


 訳もわからないが、このままでは終わらない事を察し、右手で得物を掴もうとするが、肘より先の感覚がないため、左手で掴む。


 腕を切り落としても、顔を消し飛ばしても、動くそれは覚めることを許されない悪夢のように感じる。


 「なんて酷い事するの?綺麗なお顔が地面に落ちたシャウクリームみたいになったじゃん!」


「いや、ふつーうってのは頭が吹き飛んだ時点で片道切符返金不可なんだよ」


 可愛い表現がされているが、顔面は目の位置までしか皮膚は構築されておらず、グロテスクな顔である。


「いや、こまった」


 女が自分の顎を撫でながら続ける。


「私も君も閻魔様の前に立つにはお互い力が足りないみたいだね」


 また悪戯子みたいな顔になり、左の開いた手に右手の握りしめた手を打って見せ、思いついたとニヤニヤしている。


「私の仲間になれば解決だね!」


 満面の笑みを浮かべた女の言葉を聞いた途端に電源を切られたように目の前が真っ暗になった。


それと同時に長い1日が終わる。

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