第2話 幼馴染と
「お、お前ら覚えてろよ!!!」
一人しばいてやると、それだけでド三下一行は風のように去って行った。
「ったく、昔はこんなことありえなかったんだが」
「舐められるの嫌い〜。それにほんっと信じられないんだから! 魔法使いを寄ってたかって攻撃してくるなんて……!」
「戦士の風上にもおけない連中だったな」
「で、その金棒どうするの? 多分手掛かりっぽいけど」
さすが、リリも気づいたか。
奴らの妙な自信。
その根元に。
「ああ、調査してもらおう」
散らばってしまったカケラを手分けして集め、さっきの武器屋に見せてみた。
強面の店主は面倒そうにカケラを綺麗に繋げながら渋い声を出す。
「こいつぁ魔法武器……のように見えるが。そうとも言えないような言えるようなぁ。いや違うかしかし──」
「おい」
「真面目にやってくださーい」
「バッカやろう! 客に適当なことは言えんだろうが! それにおそらく、この武器と調査費銀貨1枚程度では、魔法武器とか否か判断する程度が限度だ」
「詳細までは分からないと?」
「俺程度の鑑定魔法じゃ無理だな。金貨10枚くらい詰んでくれたら国家レベルの鑑定士に紹介できるぜ?」
金貨10枚の稼ぎ。
それこそSランクにでもならねば依頼できないということか。
「最高位の鑑定士は破損した魔道具の過去を遡って鑑定するという。なら、新品があればアンダース、アンタでも調査可能ということだな?」
「期待はしないで欲しいが……なぜ俺にこだわる? 武器を作る方は得意だが、こっちの分野にゃ他に専門家がいるだろう」
「今の俺には信用できる人間がリリとアンタしかいない。やってくれるな」
10年来の仲だ。
暗黒期ともいえる今でも、嫌な顔しながらでも何だかんだ関係を続けてくれているのは今も隣に立ってくれているリリ以外ではこの男、アンダースくらいのものだ。
「ふっ、嬉しいこと言ってくるじゃねえか。まあ断る理由もねえな」
「ありがたい」
次も人がいない時間帯に武器を見せに行こう。邪魔されたくない。
「それじゃ、また来る」
「またねー」
「おう! 裏口は開けとくから、次はこっちから来いよ」
なんて気配りの出来る男だ。
これでいて彼女が出来たことないというのだから不思議なものだ。
「あ、そうだ。お前らもうヤったのか? 付き合っては無いみてえだけど」
「アンダース、急にどう──ぅおあ!?」
「わあ、わあああ! わあぁあああああ!!」
撤回。
この男にデリカシーなんて無かった。
リリにバシバシと背中を叩かれ店外へ押し出されつつ、後頭部に怒りを叩きつけられる。
「さっき曖昧な返事しようとしたでしょ!」
「してないしてないって! ちょっと詰まっただけ!!」
「なんでさ!?」
「いやだって、寸前ま」
「全く微塵も無いから! あれはその、よく分からなかった頃にお試しというか興味本位というか……。とにかく! そういうくだらないことでエネルギーを使ったことも使う気もないからね! だからレントも変なこと言おうとしたらだめ」
「……」
リリの攻撃をするりと躱し、白く華奢な手首を優しくつかむ。
とくんとくんと、血管からやや早い脈動が伝わってくる。
「わかってる。約束したもんな絶対Sランクになるって」
俺たちは物心ついた時から一緒だった。
多くの子どもたちと同じように冒険者に憧れて──いや、多くとは異なり強く激しく憧れて。
最高位のSランクを目指すと二人で約束した。
ああ、本当にそれだけの
俺は剣士になり、リリは魔法使いとなった。
これならば別々の道を歩むのではなく、ともに目指した方がいいのではないかということで道は一つに交わり続けて今に至る。
俺はもちろんリリも恋愛感情なんて持ってないだろう。
そんなもので道を外してしまえば凡人の俺たちなぞ、とてもじゃないがSランクに至れない。
「……で、落ち着いたか?」
「うん」
「それならよし。行こう」
Aランクに恥じぬ姿勢で歩く。
ギルドに入れば四方から冷たい視線が注がれるが今さら気にしたりはしない。
俺はギルド内を俯瞰して観察した。
相変わらず活気のあるギルドだが、以前と少し違う。
冒険者のランクが一段階上昇しているのだ。
だが、以前より怪我人が増えた。
身体の一部が欠損している者はザラにいる。
Sランク冒険者を輩出したということで注目度が上がって人員が増えたし、ギルドの管理が追いついていないのかもしれないな。
「ありえない! もう付き合ってられませんわ!!」
前方の人だかりから全身に包帯を巻いた半裸の女剣士が飛び出してきた。
彼女は一直線に俺たちの方へ走ってくる。
「危ない! 避けてください──!!」
そう警告してくれた彼女の前に差し出されたのは、悪意ある意地汚い男の足。
いち早く察知した俺がその足を逆に踏ん付けて阻止したのだが……なんとまあ、鈍臭いというべきか。
「うべえ!!」
女剣士はビターンと顔面から転けてしまい、真っ赤に赤くした鼻をこちらに向けてきた。
ウルウルした眼を輝かせ、今にも泣き出しそうだ。
「不憫すぎる……」
「……」
俺には、いや誰にでも分かる。
この女剣士が放つ次の一声──。
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