追放したら『もう遅い』されたけど、納得いかないので足掻いてたらSランク冒険者にもなれたし健康にも良いしハッピーです!〜幼馴染と始める大逆転ざまぁ〜
ぱんまつり
第1話 このざまぁに異議アリ
「戻ってこいだって? 毎日毎日、何度も何度も言わせないでくれよレント。僕はもうSランクだし、その頼みが通るのはお前が上の時だけだ。分かるかい? もう遅いのさ」
Aランク冒険者パーティーのリーダーたる俺にはギルド最強としての自負と誇りがある。
だからこそ、かつてパーティーから追い出した者に対して断られているにも関わらず頭を下げ、戻ってきてくれないかと頼み込むのはあまりに屈辱的だ。
しかし、メンバーのために、ここを引くことは出来ない。
「カナン。無理は承知の上だ。俺達の夢を手伝って欲しい。報酬やダンジョンでの財宝は全てお前のものだ」
「Sランク冒険者になる夢ねぇ……嫌だなぁ、理不尽な理由で追放した人間と仕事なんて出来るわけないよ」
「理不尽……? 給金に見合った仕事をしていなかったから解雇しただけだと思うが」
「はあ? それが理不尽だって分からないのかよ」
カナンは黒髪を掻きながら聴衆に目配せをする。
嫌な感じがして胃が痛くなる。
アレが今日も始まるのだ。
『見苦しいぞレント!』『あ〜あ、レントさんって見る目なかったんだなぁ』『カナンさんが困ってるだろ!!』『ざまぁないぜ』『アイツこそギルド追放でいいんじゃないか?』『ざーこざーこ』『アイツの乳女、今なら奪えるんじゃね? だせえしアイツにはもったいねえよ』『見損なった、死ねばいいのに』
「く……クク。ハッハァ!! きんもぢいいいい!!!!!」
ここはギルドのど真ん中。
いつも忙しそうにしているカナンと遭遇出来るのはここしかないので、必然的に衆目に晒されるのだ。
そこそこ大きなギルドなので中には俺に不満を持っている連中もおり、罵声が飛んでくる。
彼らにとってこの見世物はさぞかし愉快なものだろう。
もっとも、俺にとって──そしてパーティーメンバーにとっては不愉快だが。
「もういいよレント……これ以上はキミが壊れちゃう……」
残った仲間は一人だけ。
カナンを追放した後、調子が悪くなった俺たちは上手くいかなくなりパーティー内での不和が生まれたのだ。
だから今残っているのは幼馴染であるリリ・タストリアだけだ。
彼女の澄んだ碧眼は潤んでおり、俺の姿はぼやけて見えない。
昨日までは涙していなかった。
来るのは俺一人でいいと言っているのに、付き添い続けてくれたがこれ以上は負担になる。
リリが言っているように俺の身体にも少しずつ精神的な不調による不可解なダメージが見られ始めたし、彼女の言う通りこれ以上は無理だ。
「──おーい、何で黙っちゃったの? それに震えてるし大丈夫? 医務室連れて行こうか?」
しばらく黙り込んでいると、見かねたカナンが手を俺に──いや、リリに差し伸ばした。
「っ、触るな!」
「うお?! こわ!」
その手を衝動的に弾く。
カナンは大袈裟に尻餅をつき、かさかさと後退した。
相変わらず鈍い動きをする男だが、それでも彼はSランク。
手を出してしまったことでギルド内には怒号がうねる。
カナンの周りには複数人のビキニアーマーを纏った女性が集い、護衛のように視界を遮ってくる。
「ウチのリーダーに近寄る小蝿め。去りなさい!」
彼女らは今のカナンのパーティーメンバーだ。
一様に容姿が整っており、そして、冒険者としては練度が低い。
見た目だけで選んだのだろう。
そんな女性達のリーダー格が剣を抜き立ち塞がる。
リリが負けじとAランク冒険者にふさわしい大きな魔力を練り上げ糾弾しようとしたので、これはマズイと思い手で制する。
「わかった。もう関わらない。諦めるよ」
「レント!?」
「それでいいわ。二度と顔を見せないでちょうだい」
「ああ。約束する」
悔しいが仕方ない。
計画には失敗がつきものだ。
力尽きるまでは何度でも練り直せばいい。
だからリリ、そんなに口を尖らせて不満な顔をしないでくれ。
俺は絶対にキミとの約束を諦めたりしないから。
==============
ギルドを出るとリリは道具屋へ道具を仕入れに、俺は武器の調達に武器屋に足を運んだ。
武器屋の店主は会計をしながら八つ当たりのように剣を投げつけてくる。
「おい、武器が傷つくだろ。それでも武器屋か?」
「構わねえだろ。どうせすぐ壊して買いに来るんだろ? Aランク冒険者さまにとっちゃ俺の剣はナマクラなのさ」
「そんなことはない。アンタの剣は街で一番だ。最近よく壊すようになったのは……」
一瞬カナンの顔がチラついて──その灯火をふっと消す。
いいや、言い訳にはしたくない。
「きっとそう、歯車が合わなくなっただけだ。調子が悪いというか……まあ、俺のせいだな」
自嘲混じりに言ってみた。
店主は目を細め、親指でぴんと銀貨を弾いた。
「カナンのやつを追い出してからそんな感じだよなお前。メンバーが脱退したくらいで調子崩すようなタマだったか? お前さんは」
「……崩す、というか崩さないための調整は可能な限りやったつもりさ。それでもダメだったというだけの話だ」
「そうかい? ちと異常な気はするが……カナンの成り上がりも含めてな。Sランク、多分半年くらいで行っただろ」
「……対して俺は10年経ってもAランクだ」
「バカ言え。お前さんも十分すごいぞ? 何しろAランクなんて一つのギルドに一組あれば万々歳だからな──っと、毎度あり。ピッタリだな」
決して安くない金額を払い、プラチナで鍛え上げられた大剣を背負い上げ、武器屋を後にしてぶらぶら歩く。
「異常……違和感、か」
そんなものがあるのだろうか。
違和感といえば、例えばカナンは
カナンの加入当初、俺たちはCランクだったので相応の仕事しかなかった。
スケールアップをしてもカナンの実力は向上しないのに、初期の取り決めで山分けは変わらない。
そうすると当然、メンバー内でカナンに対する不満は募る。
最終的に、仕事内容に見合った金額をカナンに提示してみたが聞き入れられず、やむなく解雇することになったわけで、手順は踏んでいるしそこまで理不尽とは感じない。仕方なかったという印象だ。
「見合った仕事……理不尽……あるいは、いや、もしかして、相応の仕事をしていた?」
俺たちが気づかないところで。
見えない形で。
見えないナニカで。
だから交渉が決裂した?
話が噛み合わない?
だが、カナンは何も申告していないはず。
だとしたら、むしろカナンの方こそが理不尽だ。
「見えないナニカ。カナンの有無で変わったもの。コンディションに武器の不調。だがアイツはただの剣士だったはず……いや、先入観は捨てるべきか」
ぶつぶつ独り言を垂れ流しながら浮浪者のような足取りで道具屋へ行き着いた。
同じ通りなのでいつもならリリと邂逅するのだが、今日は遅いな。何か迷っているのだろうか。
「行ってみるか」
道具屋の扉に続く石造りの階段に足をかける──その瞬間だった。
「きゃあ!」
リリが階段の上から吹き飛ばされたかのようにして落ちてきたのは。
咄嗟に受け止めたので背中を強く地面に打ちつける。
彼女の黄金の髪が俺の視界を遮った。
「リリっ、無事か!?」
「レントの方こそ、あの、その……重くない?」
「お、重くないさ。それより何だアイツらは」
リリを丁重に下ろし斜め上を見上げ、扉の前に立ったニヤついた男達を睨み付ける。
彼らは俺を発見するとつまらなそうに肩を竦めて卑しく口を動かした。
「早くしねえから来ちゃったよ」
「こりゃ十発どころか一発もやれねえな」
「リリちゃんエロいけどつええから、やっぱ無理無理よ。簡単なとこ行けばよかったぜ」
一言一言が俺の神経を逆撫でてくる。
無名冒険者のくせして良い度胸だ。
「そんでレントさんよ。怖い顔しても無駄だぜ? お前じゃ俺に勝てねえ」
「……銀のプレート。Cランクのお前が?」
「おうとも。今度は俺様が街の外につまみ出してやる。追放だ」
「そうか」
これこそ本当の理不尽だな。
「ギャハハ、ざまぁねえぜ! もう才能あるやつにぺこぺこする必要なんざねえ。
瞬時に移動して手のひらで力いっぱい男の顔を掴み上げ、全力で通り側にぶん投げる。
「まっっっったく動きについてこれないくせ、に! お前がぶっ飛べよ!!!」
今までの鬱憤をぶちまけるか如く全力で。
男の横に転がった金棒を軽々拾い上げて、やけに軽い得物をギルドの方角に突きつけてさらにぶちまける。
「ふざけるなよ。俺を、俺たちを舐めるな!」
ぐしゃっとグリップを握り潰すと、ゾクゾクとした心地よさが背中を駆け抜けた。
苦しいばかりで久しく忘れていた感覚だ。
こいつが大事なのさ。
この高揚感が。
「悪いなリリ、ちょっと寄り道していいか? やられっぱなしは納得いかん」
「ん、その言葉待ってた」
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お読みいただきありがとうございます!
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