第3話 佐々木の手がかり
朝の門司港は、静寂の中に温かな陽光が差し込み、町全体が目覚めるようだった。三田村香織は窓の外を見つめながら、今日の予定を頭の中で整理していた。隣では藤田涼介がノートパソコンを開き、何かを調べている。
「さて、美沙さんの日記に出てきた佐々木康平という名前の手がかりを追ってみましょうか。」香織が静かに言った。
「そうだね。まずは彼女の勤務先に行って、同僚たちに話を聞いてみよう。」藤田が同意した。
二人は探偵事務所を出て、美沙の勤務先である大手広告代理店へと向かった。オフィスビルのエントランスに入ると、受付の女性が迎えてくれた。香織が名刺を差し出し、事情を説明すると、すぐに美沙の同僚である田村由香が呼ばれた。
「こんにちは。田村由香です。美沙のことで何かお力になれることがあれば…」由香は少し不安げな表情で話し始めた。
「こんにちは、田村さん。実は、美沙さんの日記に佐々木康平という名前が頻繁に出てきていまして、彼女が最近何かトラブルを抱えていたかどうかを知りたいのです。」香織が尋ねた。
「佐々木康平ですか…彼は美沙の同僚で、確かによく一緒に仕事をしていました。最近、何か問題があったようで、二人の関係がぎくしゃくしていたみたいです。でも、具体的に何があったのかは私もよくわからなくて。」由香は心配そうに答えた。
「佐々木さんがよく行く場所や、話を聞ける場所はご存知ですか?」藤田が質問を重ねる。
「彼はよくシーサイドカフェに行っているようです。そこで仕事の話をしていることが多いと聞きました。」由香は思い出したように言った。
「ありがとうございます、田村さん。大変助かりました。」香織は礼を言い、由香と別れた。
シーサイドカフェに向かう途中、二人は港の景色を楽しみながら話を続けた。
「美沙さんが何かに怯えていたというのは気になるね。公衆電話からの不審な電話も含めて、何か大きな秘密が隠されているのかもしれない。」藤田が推測した。
「ええ、まずは佐々木さんに話を聞いてみましょう。」香織が頷いた。
シーサイドカフェに到着すると、店内は落ち着いた雰囲気で、多くの客がそれぞれの時間を楽しんでいた。カウンターの近くには、一人で座っている佐々木康平の姿があった。香織と藤田は彼のテーブルに向かい、声をかけた。
「佐々木康平さんですか?少しお話を伺いたいのですが。」香織が穏やかに尋ねた。
佐々木は驚いた様子で顔を上げたが、すぐに落ち着きを取り戻した。「はい、私が佐々木康平ですが、何のご用でしょうか?」
「私たちは探偵です。三田村香織と藤田涼介といいます。中山美沙さんの失踪について調査しています。」香織が名刺を差し出しながら説明した。
「美沙の失踪…?そんな、まさか…」佐々木はショックを受けた表情で言った。
「彼女の日記にあなたの名前が頻繁に出てきました。最近、彼女と何かトラブルがあったと聞いていますが、詳しくお話しいただけますか?」藤田が問いかけた。
「実は…美沙は最近、何かに怯えているようでした。夜中に不審な電話がかかってきたり、誰かに尾行されているような気配を感じたりしていました。私は彼女を守りたかったのですが、そのことで何度か口論になってしまって…」佐々木は苦しげに話した。
「不審な電話の発信元について、何か心当たりはありますか?」香織が尋ねた。
「いいえ、私は何もわかりません。ただ、美沙が何か大きな問題に巻き込まれているのではないかと心配していました。」佐々木は首を振った。
「ありがとうございました。大変助かりました。」香織は感謝の言葉を述べ、佐々木と別れた。
カフェを出ると、香織と藤田は再び港の景色を眺めながら歩き出した。
「次は公衆電話の位置を確認しに行きましょう。防犯カメラの映像が何か手がかりを与えてくれるかもしれません。」香織が提案した。
「そうだね。美沙さんが何に怯えていたのか、その真相を突き止めなければ。」藤田も同意した。
二人は公衆電話の位置を確認し、近くの建物に設置された防犯カメラの映像を確認するために管理人に協力を求めた。管理人は快く協力し、防犯カメラの映像を再生してくれた。
「これを見て。公衆電話を使っている男が映っている。」藤田が指差した映像には、松田和也という男が美沙に電話をかけている姿が映っていた。
「この男が不審な電話の発信者ね。彼を見つけ出して話を聞いてみましょう。」香織は決意を固めた。
香織と藤田は松田和也の居場所を突き止めるために、さらなる調査を続けることにした。美沙の失踪の真相を解明するための手がかりが少しずつ明らかになりつつあった。門司港の静かな夜が、新たな冒険の始まりを告げていた。
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