第2話 失踪事件の発端

三田村香織と藤田涼介は門司港の朝日に背を押されるようにして探偵事務所を出た。街にはまだ霧が残り、薄いベールのように建物や人々を包み込んでいる。港に向かって歩く二人の足音が、静かな通りに響いた。


目的地は失踪した女性、中山美沙の自宅だ。彼女の家族からの依頼で、香織と藤田は調査に乗り出した。中山美沙は20代半ばの女性で、数日前から連絡が途絶えている。彼女の家族は、門司港の平和な街に突如として現れた不安に怯えていた。


「美沙さんの失踪には、何か大きな背景がある気がするわ。」香織は、歩きながらふと呟いた。


「そうだね。失踪事件にはよく深い事情が絡んでいる。家族や友人との関係、仕事のトラブル…。まずは彼女の生活を詳しく調べてみよう。」藤田は真剣な表情で答えた。


美沙の自宅に到着すると、彼女の両親が迎えてくれた。疲れ切った顔をした母親が、香織たちにリビングへと案内する。部屋には美沙の写真が飾られ、温かい家庭の雰囲気が漂っていた。


「娘が失踪してから、私たちの生活は一変しました。警察にも相談しましたが、まだ何も進展がありません…」母親の声は震えていた。


「お話を聞かせてください。美沙さんが最後に目撃されたのはいつですか?」香織は優しく問いかけた。


「最後に彼女を見たのは3日前の夜でした。仕事から帰ってきて、その後部屋にこもっていました。でも翌朝、彼女の部屋はもぬけの殻でした。携帯電話も財布もそのまま残されていて…」父親が答えた。


「鍵はかかっていましたか?」藤田が質問を重ねる。


「いいえ、玄関の鍵は開いていました。窓も閉まっていて、外から侵入された形跡はありませんでした。」


「彼女が何かトラブルを抱えていた可能性は?」香織は、視線を写真に移しながら尋ねた。


「わかりません…彼女は仕事で忙しくしていましたが、特に悩んでいる様子はありませんでした。」


藤田は手早くノートパソコンを取り出し、美沙のSNSアカウントを調べ始めた。最新の投稿やメッセージを確認し、何か手がかりがないかを探る。


「香織さん、彼女の最後の投稿は失踪する前日の夜ですね。特に異常は見当たりませんが…」藤田は画面を香織に見せた。


「何か見落としているかもしれない。もう少し彼女の部屋を調べてみましょう。」


香織と藤田は、美沙の部屋へと向かった。そこには、彼女の日常がそのまま残されていた。ベッドの上には読みかけの本が置かれ、デスクには仕事の資料が散らばっている。香織は部屋の中を細かく見渡し、何か異変がないかを探した。


「この部屋には、特に争った形跡はないわね…」香織は静かに言った。


藤田はデスクの引き出しを開け、一冊のノートを見つけた。「これは…日記かな?少し覗いてみるよ。」


藤田がノートを開くと、そこには美沙の心の内が綴られていた。最近の仕事のストレスや、友人との関係について書かれているページをめくると、最後の数ページに一つの名前が頻繁に出てくることに気づいた。


「香織さん、この名前に見覚えは?」藤田が指差した名前を香織に見せた。


「佐々木…この名前、依頼人の話には出てこなかったけど…調べてみる価値がありそうね。」


「うん。まずはこの佐々木という人物が何者かを突き止めよう。」


香織と藤田は手がかりを手にし、再び街へと向かう。港の風が二人の顔に吹きつけ、新たな謎の始まりを予感させた。彼らの探偵としての旅は、まだ始まったばかりだった。

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