三田村&藤田探偵事務所: 門司港の謎

湊 町(みなと まち)

第1話 門司港の朝

朝の門司港は、静けさと共に目を覚ます。湿った空気が少しずつ温まり、薄い霧が街全体を包んでいた。歴史ある赤レンガの建物が連なる街並みは、どこか懐かしさを感じさせる。港に面した通りには、小さなカフェや骨董品店が点在し、そのひとつひとつが過去の記憶を語りかけるようだ。


三田村香織は、その街の一角にある探偵事務所の窓から外を見つめていた。彼女の目には、穏やかな朝の風景が広がっている。けれども、その瞳の奥には深い思索が宿っていた。過去の失敗――それは警察官としてのキャリアに大きな影を落とし、彼女をこの港町に追いやった。しかし、彼女はその過去を乗り越え、新たなスタートを切ろうとしているのだ。


「また、新しい一日が始まるのね…」


香織は小さく呟くと、机の上に広げられた事件ファイルに視線を落とした。最近、依頼が増えてきた。門司港の静けさの裏には、数々の秘密が潜んでいる。香織はその一つ一つを解き明かし、真実を暴くことに心血を注いでいた。


その時、ドアが軽くノックされ、藤田涼介が入ってきた。彼はカジュアルな服装に身を包み、手にはノートパソコンを抱えている。藤田の登場はいつもながら軽快で、香織の暗い思索を打ち消すようだった。


「おはよう、香織さん。今日はどんなミステリーに挑むの?」


藤田はにっこりと笑いながら、机の向かいに腰を下ろした。彼の明るい笑顔に、香織もつられて微笑む。


「おはよう、涼介。今日も忙しくなりそうよ。新しい依頼が届いたわ。若い女性が失踪したらしい。」


「失踪か…。やっかいそうだね。でも、僕たちなら必ず見つけ出せるさ。」


藤田は自信に満ちた声でそう言うと、手早くノートパソコンを開き、情報を検索し始めた。彼の指先がキーボードを軽やかに叩く音が事務所に響く。香織はその音を聞きながら、再び窓の外に目をやった。


「門司港には、まだまだ私たちが知らない秘密がたくさんあるわね。」


そう呟く香織の瞳には、新たな決意が光っていた。彼女はこの港町で、過去の影と向き合いながら、真実を追い求める旅を続けるのだ。


香織は立ち上がり、事務所の小さなキッチンに向かった。そこにはお気に入りのコーヒーメーカーがあり、毎朝の儀式のように香織はそれを使ってコーヒーを淹れる。コーヒーの香りが事務所内に広がり、緊張感を和らげるように優しく包み込む。


カップに注がれたコーヒーを手に取り、香織はその温かさを感じながら一口飲んだ。深い味わいとともに、心が少しだけ安らぐ。


「この香り、落ち着くわね…」


藤田もノートパソコンの画面から顔を上げて、香織の手元のカップを見た。「そのコーヒー、僕にも一杯お願いできる?」


香織は微笑みながらもう一つのカップを取り出し、藤田のためにコーヒーを淹れた。二人は静かにコーヒーを飲みながら、今日の計画を練る。香織の心には、彼女と藤田のコンビならどんな難事件も乗り越えられるという確信が芽生えていた。


「よし、準備は整ったわね。行きましょう、涼介。」


「うん、行こう。」


二人はカップを置き、失踪事件の調査に向かうべく事務所を後にした。港の風が彼らを迎え、また新たな冒険の始まりを予感させる。

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