4 光の誕生
王国アストラリアの中心で、ゼノンとセルフィーヌの力がぶつかり合う。
禍々しい闇の力と、輝かしい光の力。その衝突は、周囲の世界を歪ませ、崩壊させていく。
「ゼノン、お願い! その力を止めて!」
セルフィーヌの叫びが、混沌の中に響く。しかし、ゼノンの耳には届かない。彼の目は赤く染まり、理性を失っていた。
「このクソッタレな世界なんざ、全部消してやる! お前を傷つけようとした奴らを、皆殺しにしてやる!」
ゼノンの怒号と共に、さらに強大な魔力が放たれる。地面が大きく裂け、建物が次々と崩れ落ちていく。人々は悲鳴を上げ、必死に逃げ惑う。
その混沌の中、ルナが必死にセルフィーヌの元へと駆けつけた。
「姉さん!」
「ルナ! 危ないわ、早く逃げて!」
セルフィーヌは妹を守るように抱きしめる。ルナの体から、かすかに光の力が漏れ出ていた。
「逃げられないわ。姉さんと一緒に、ゼノンを止めなきゃ」
ルナの決意に満ちた声に、セルフィーヌは一瞬驚いた表情を見せる。しかし、すぐに優しく微笑んだ。
「そうね。一緒に⋯⋯」
姉妹は手を取り合い、ゼノンに向かって歩み寄る。二人の体から放たれる光が、少しずつ闇の力を押し返していく。
「ゼノン! 私たちの声が聞こえる?」
ルナの呼びかけに、ゼノンの動きが一瞬止まる。
「私たちはここにいるわ。もう大丈夫よ」
セルフィーヌの優しい声が、ゼノンの心に届き始める。
「セル⋯⋯フィーヌ? ル⋯⋯ナ?」
ゼノンの目の赤い光が、少しずつ薄れていく。しかし、既に解放された禁忌の力は、制御不能になっていた。
「くっ⋯⋯止まらない!」
ゼノンが苦しそうに叫ぶ。周囲の崩壊は止まらず、むしろ加速していく。
「どうすれば⋯⋯」
ルナが途方に暮れた表情を見せる中、セルフィーヌは静かに目を閉じた。
「方法はあるわ。でも⋯⋯」
「姉さん?」
セルフィーヌは目を開け、優しく微笑んだ。
「ルナ、あなたに全てを託すわ。これからは、あなたが光の守護者よ」
「え? 姉さん、まさか⋯⋯」
セルフィーヌは、ゼノンに向かって歩み寄る。
「ゼノン、私が全ての魔力を受け止めるわ。そして、浄化する」
「だめだ! そんなことをしたら、お前は⋯⋯!」
ゼノンの目に、涙が浮かぶ。しかし、セルフィーヌの決意は固かった。
「これが、私の最後の役目」
セルフィーヌは両手を広げ、全ての魔力を自分に引き寄せ始めた。闇の力と光の力が、彼女の体内で激しくぶつかり合う。
「うっ⋯⋯!」
苦痛に顔を歪めながらも、セルフィーヌは微笑みを絶やさない。
「ゼノン、ルナ⋯⋯二人とも、幸せになって」
そう言うと、セルフィーヌの体が眩い光に包まれた。その光は、周囲の闇を全て吸収していく。
「姉さんっ!」
ルナが叫ぶ。しかし、光が消えると、そこにセルフィーヌの姿はなく、ただ小さな光の粒子が漂っているだけだった。
「セルフィーヌ⋯⋯俺が⋯⋯俺のせいで⋯⋯」
ゼノンが崩れ落ちる。しかし、その時だった。
光の粒子が、突如としてゼノンの体に吸い込まれていく。
「な⋯⋯何だ?」
ゼノンの体が、まばゆい光に包まれる。その姿が徐々に変容していく。
「ゼノン!」
ルナが駆け寄ろうとするが、光があまりに眩しく、近づけない。
突如として、空間が大きく歪み始めた。そこから、人知を超えた存在が姿を現す。それは、まるで宇宙そのものが形を成したかのような、荘厳な姿だった。
「人間よ、汝は禁忌を犯した」
その声は、直接心に響いてくる。ゼノンとルナは、畏怖の念に打たれ、言葉を失う。
「しかし、汝の行いには愛があった。故に、完全な抹消は免れよう」
存在はゼノンに視線を向けた。
「汝、ゼノンよ。禁忌の力を用いた罰として、人としての生を失う。だが、愛する者のために力を求めた思いは、新たな使命となろう」
光の粒子がゼノンの周りを舞い、彼の体と一体化していく。
「セルフィーヌの魂と力を受け継ぎ、この世界の均衡を守る者となるのだ。それが、汝の贖罪であり、新たな存在意義となる」
ゼノンの体が輝き、人間の姿から純粋な光の存在へと変容していく。彼は驚きと戸惑いを感じながらも、自分の中に流れ込む新たな力と使命を感じ取っていた。
「我は、汝に光の存在となる力を与えよう。だが、それは祝福であると同時に、重い十字架でもある」
存在はルナにも目を向けた。
「若き守護者よ。汝もまた、重大な責務を担うこととなる。地上にあって人々を導き、光の道を示せ」
ルナは震える声で答えた。
「はい⋯⋯分かりました」
存在は満足げに頷くと、ゆっくりと消えていった。
「ゼノン⋯⋯」
ルナが驚きの表情で光となったゼノンを見上げる。
「ルナ⋯⋯俺は、もう人ではない。でも、セルフィーヌの思いと共に、この世界を守り続ける」
ゼノンの声が、直接ルナの心に響く。
「これが、俺たちの犯した過ちへの償いであり、新たな使命なんだ」
ルナは涙を流しながら頷いた。
「分かったわ。私も、姉さんから託された力で、この世界を守り続ける」
二人の決意と共に、新たな時代が始まろうとしていた。崩壊の危機から救われた王国は、少しずつ立ち直っていく。
そして、ゼノンは光の存在として世界を見守り続け、ルナは新たな光の守護者として人々を導いていく。
セルフィーヌの犠牲は、決して無駄にはならなかった。彼女の思いは、ゼノンとルナの中で生き続け、そしていつか、新たな形で蘇ることを待っているのだった。
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