番外編 古代アストラリア王国
1 古代王国
古代アストラリア王国の空は、いつも魔法の輝きに満ちていた。星々のように煌めく魔法の粒子が、王都の上空を漂い、その光景は夜空の星座さながらだった。
そして、この王国には最も輝かしい存在が三人いた。
王国随一の魔法使いゼノン、光の守護者セルフィーヌ、そしてセルフィーヌの妹ルナである。
ゼノンは二十五歳になったばかりの若き天才魔法使いだった。
彼の長い銀髪は風に揺れ、深い青色の瞳は知性の光を湛えていた。
王宮の魔法研究所で日々新たな魔法の開発に励む彼の姿は、多くの若者たちの憧れの的だった。
セルフィーヌは、ゼノンと同い年でありながら、すでに「光の守護者」という神聖な役職に就いていた。
彼女の金色の髪は太陽の光のように輝き、優しい緑の瞳は深い慈愛に満ちていた。セルフィーヌの役目は、王国の平和を守り、人々の幸せを祈ることだった。
そして、セルフィーヌの1歳年下の妹ルナは、姉ほど目立つ存在ではなかったが、密かに強い魔法の才能を秘めていた。
ルナの黒髪は夜空のように深く、紫色の瞳は神秘的な輝きを放っていた。彼女は姉の影から、常にセルフィーヌを支え続けていた。
三人は幼い頃からの親友で、互いを深く信頼し合っていた。
ゼノンが魔法の研究に行き詰まったときは、セルフィーヌが励まし、ルナが新たなアイデアを提供した。
セルフィーヌが守護者としての重責に悩むときは、ゼノンが支えとなり、ルナが静かに寄り添った。
ある晴れた日の午後、三人は王宮の庭園で落ち合った。彼らは噴水の縁に腰掛け、静かに語り合う。
「ゼノン、最近の研究はどう? 新しい発見はあった?」
セルフィーヌの声は、そよ風のように優しかった。
「ああ、面白いことがわかってきたんだ。魔力の流れを操作することで、これまで不可能だと思われていた魔法の組み合わせが可能になるかもしれない」
「それは素晴らしいわ。きっと王国のためになる発見になるわね」
セルフィーヌは微笑んだが、その表情にはかすかな翳りが見えた。ゼノンはすぐにそれに気がつくと、声を掛けた。
「どうしたんだ、セルフィーヌ? 何か悩みでもあるのか?」
「ううん、大丈夫。ただ、最近少し疲れているだけよ」
セルフィーヌは軽く首を振ったが、ゼノンは納得しなかった。
「本当に大丈夫なの?」
ルナが静かに口を開いた。彼女は常に姉の様子を気にかけていた。
「姉さん、無理はしないで。私にできることがあれば言って」
セルフィーヌは妹に優しく微笑んだ。
「ありがとう、ルナ。でも本当に大丈夫よ。それより、街の様子が少し気になっているの」
セルフィーヌの言葉に、ゼノンとルナは顔を見合わせた。
「街の様子? 何か問題でもあるのか?」
ゼノンが尋ねると、セルフィーヌは深刻な表情で答えた。
「最近、体調を崩す人が増えているの。特に貧しい地域で顕著みたい。私も毎日祈りを捧げているけど、なかなか改善しないの」
ルナは眉をひそめた。
「私も街で噂を聞いたわ。でも、まさか本当だったなんて⋯⋯」
「もしかしたら、私の研究が役立つかもしれない。魔力の流れを操作することで、人々の体調を改善できるかもしれないんだ」
「そうね。あなたの研究が、きっと多くの人を救うわ」
ルナは黙って二人の会話を聞いていたが、ふと思いついたように言った。
「私も力になれるかもしれない。街の人々の話を直接聞いて、症状や広がり方を調べてみるわ」
セルフィーヌは妹の申し出に感謝の笑みを向けた。
「ありがとう、ルナ。でも危険は避けてね」
その日から、三人はそれぞれの方法で問題に取り組み始めた。
ゼノンは研究にさらに打ち込み、セルフィーヌは祈りを強め、ルナは密かに街へ足を運んだ。
しかし、状況は予想以上に深刻だった。数週間後、王国中に疫病が蔓延し始めた。最初は貧しい地域だけだったが、次第に富裕層にも広がっていった。
人々は恐怖に怯え、街には不安が渦巻いていた。
ゼノンは必死に治療法を研究したが、なかなか効果的な方法は見つからなかった。
セルフィーヌは昼夜を問わず祈り続けた。彼女の祈りは、確かに疫病の進行を遅らせていたが、完全に止めることはできなかった。
ルナは姉の体調を気遣いつつ、街の情報収集に奔走した。
ある夜、疲れ果てたセルフィーヌが祈りの間で休んでいると、ルナがそっと部屋に入ってきた。
「姉さん、少し休んで」
ルナは優しく姉の肩に手を置いた。
「ルナ⋯⋯ごめんね、心配させて」
セルフィーヌは弱々しく微笑んだ。
「姉さんが倒れたら、もっと大変なことになるわ。私に手伝えることはない?」
ルナの声には切実な思いが込められていた。セルフィーヌは妹の手を優しく握った。
「ありがとう、ルナ。でも、これは私がやらなければいけない事だから」
「でも、私にも魔法の才能があるわ。姉さんと同じように人々を守りたい」
セルフィーヌは悔しそうに唇を噛む妹の頭を優しく撫でた。
「あなたの才能は知っているわ。でも、今はまだその時じゃない。あなたには、もっと大切な役目があるの」
「大切な役目?」
「ええ。でも、今はまだ言えないの。ごめんね」
ルナは不満そうな表情を浮かべたが、それ以上は追及しなかった。彼女は姉の体調を気遣いつつ、自分にできることを探し続けた。
そんなある日、ゼノンが研究所から王宮に戻ると、異様な雰囲気に包まれていた。廊下を走る侍従たちの表情は緊張に満ちていた。
「一体何が起きたんだ?」
ゼノンが声をかけると、一人の侍従が立ち止まった。
「ゼノン様、大変です! セルフィーヌ様が、魔女の疑いをかけられたのです!」
「何だと!?」
ゼノンは驚きのあまり、声が裏返った。その時、ルナが駆けつけてきた。
「ゼノン! 聞いた? 姉さんが⋯⋯」
ルナの声は震えていた。ゼノンは彼女の肩をしっかりと掴んだ。
「落ち着くんだ、ルナ。これは何かの間違いに違いない」
しかし、ゼノンの心の中でも不安が渦巻いていた。セルフィーヌが魔女だなんて、そんなはずがない。しかし、なぜこのような噂が広まってしまったのか。
二人は急いでセルフィーヌを探し始めた。王宮の混乱の中、彼らは必死に真実を明らかにしようと動き始めた。しかし、事態は彼らの予想をはるかに超えて、急速に悪化していくのだった。
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