エピローグ

夏の終わりを告げる風が、エリーナ・エヴェリストの銀髪を優しく撫でていった。


彼女は執務室の窓辺に立ち、自らが治める領地を見渡している。

かつて荒廃していたこの地は、今や豊かな実りに満ちていた。黄金色に輝く麦畑、活気に溢れる新しい家々、そして人々の笑顔。全てが、彼女の努力の結晶だった。


「エリーナ様」


側近の声に振り返ると、そこには予期せぬ来訪者の知らせが待っていた。


「リュシアン様がお見えになりました」


エリーナの心臓が高鳴った。彼女は深呼吸をして、感情を落ち着かせようとしたが、頬は薔薇色に染まっていた。


「通してください」


扉が開き、リュシアンが入ってきた。彼の姿を見た瞬間、エリーナの表情が柔らかくなる。


「リュシアン、よく来てくれたわ」


リュシアンは微笑みながら彼女に近づいた。


「久しぶりだね、エリーナ。王都での仕事の合間を縫って来たんだ」


二人は抱擁を交わし、互いの温もりを感じた。離れていた時間が、一瞬で埋まっていく。


「見て、リュシアン」


エリーナは再び窓の外を指さした。


「この一年でずいぶん変わったわ」


「君の努力の賜物だよ。本当に素晴らしい」


エリーナは机に置かれた手紙に目を向けた。


「学院からの手紙よ。休学中だけど、いつかまた戻りたいの。ソフィアとレオナルドのことも気になるわ」


「二人とも君のことを心配しているよ。レオナルドは、騎士としての訓練に励みながらも、君のことを気にかけていたよ」


夕暮れが近づき、執務室は柔らかな光に包まれていた。リュシアンは突然、真剣な表情になった。


「エリーナ、聞いてほしい」


彼はポケットから小さな箱を取り出し、静かに開いた。そこには、星明かりのように輝く指輪があった。


「エリーナ・エヴェリスト」


リュシアンの声は、深い愛情に満ちていた。


「俺と結婚してくれないか? この領地の発展のため、そして王国の未来のため、共に歩んでいきたい。君と一緒に人生を歩みたいんだ」


エリーナの目に涙が浮かんだ。それは喜びの涙だった。


「ええ、もちろんよ、リュシアン。あなたと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる」


二人が抱き合った瞬間、領地の方から何かの歓声が聞こえてきた。週末の市で賑わう広場には、幸せそうな人々の姿があった。


「私たちも行ってみましょう?」


エリーナは明るい声で言った。エリーナとリュシアンが姿を現すと、歓声は一層大きくなった。


リュシアンとの結婚。それは単なる愛の物語ではなく、新しい時代の幕開けを意味しているようだった。


夜になり、二人は城の屋上で星空を見上げていた。

「これからも、みんなの幸せのために全力を尽くすわ」


エリーナは静かに誓った。


「そして、リュシアンと共に、新しい家族の絆を築いていく。いつか、学院にも戻って、新しい世代を導きたいの」


リュシアンは彼女の手を強く握った。


「俺たちならできる。王国のために、そして俺たちの未来のために、共に歩んでいこう」


無数の星が、二人の誓いを見守っていた。


エリーナ・エヴェリストの物語は、ここから新たな章を迎える。過去の痛みを乗り越え、未来へと歩み出す彼女の姿は、領地の人々に、そして王国全体に、勇気と希望をもたらすだろう。


夜空に輝く星々のように、エリーナとリュシアンの未来は無限の可能性に満ちていた。二人の絆と、彼らが築こうとする新しい世界への期待が、この静かな夜に、力強く息づいていた。

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