4-9 希望

リュシアンは倒れたエリーナを抱きかかえ、必死に呼びかけた。


エリーナの顔は蒼白で、呼吸は浅く、かすかになっていた。彼女の体から放たれていた光は消え、生命力が急速に失われていくのを感じた。


リュシアンは彼女の手を握り締め、その冷たさに戦慄した。


「エリーナ! 目を覚ませ! お願いだ、死なないでくれ!」


彼の声は震え、目には涙が滲んでいた。


仲間たちが急いで駆け寄ってきた。メイリンが涙をポロポロこぼしながら叫ぶ。


「エリーナさん! お願いです、死なないで! 私たちにはあなたが必要なんです!」


彼女は震える手でエリーナの額に触れ、回復魔法を唱えようとするが、効果がない。メイリンは膝をつき、すすり泣いた。


カイルは拳を強く握りしめ、唇を噛みしめていた。彼の目には怒りと悲しみが入り混じっていた。


「くそっ⋯⋯こんな終わり方があっていいのかよ⋯⋯エリーナ、お前はもっと強いだろ! 立ち上がれよ!」


彼の声は怒鳴るようでありながら、その奥底に深い悲しみが滲んでいた。


アリアは静かに目を閉じ、祈りを捧げるように両手を胸の前で組んだ。彼女の唇が小さく動き、古の言葉で何かを唱えているようだった。アリアの周りにかすかな闇のオーラが漂い、エリーナに向かって流れていくが、それも効果がないようだった。


ダミアンは無言で立ち尽くしていたが、その目には涙が光っていた。普段は感情を表に出さない彼だが、今は悲しみを隠そうともしていなかった。


「エリーナ⋯⋯目を覚ましてくれ」


リュシアンの声は絞り出すように小さかった。震える手でエリーナの頬を撫で、涙ながらに語りかけた。


「エリーナ⋯⋯お前がいなければ、俺は生きていけない。目を覚ませ⋯⋯頼む⋯⋯俺たちはまだやることがたくさんあるんだ。王国の未来を共に築いていこうと約束しただろう?」


彼の声は途切れ途切れになり、最後はかすかな囁きになった。


「俺は⋯⋯お前を愛している。だから⋯⋯戻ってきてくれ」


その瞬間、突如として眩い光が広場を包み込んだ。それは太陽のような輝きを放ち、暖かく、優しい光だった。光は次第に強くなり、やがて周囲の景色が見えなくなるほどになった。


リュシアンたちは目を細めて光を見つめた。その中心から、一つの存在が現れ始めた。それは人の形をしているようでありながら、完全に光で構成されていた。その姿は常に揺らぎ、明確な輪郭を持たなかった。


光の存在は、ゆっくりとエリーナの方へ近づいてきた。その動きに合わせて、周囲の光が波打つように揺れた。


存在が語り始めると、その声は耳で聞くというよりも、直接心に響くものだった。


「よくがんばりましたね、エリーナ」


リュシアンは戸惑いながらも、エリーナを抱きかかえたまま立ち上がった。


「あなたは⋯⋯」


光の存在は穏やかに応えた。


「私は、この世界の光そのものです。古の時代から存在し、世界の均衡を見守ってきました。エリーナの魂は古代の魔法使い。私の意思によってこの世に再び生を授けました」


光の存在はエリーナに近づき、光で構成された手をエリーナの額に当てた。


「私は彼女に自由だと伝えました。けれど、やはりこの道を選んでしまうのですね⋯⋯セルフィーヌ。⋯⋯大丈夫、まだあなたの命は終わっていませんよ」


光の存在の手から、エリーナの体に光が流れ込み始めた。最初はかすかだったが、次第に強くなっていく。エリーナの顔色が徐々に戻り始め、呼吸も深くなっていった。


リュシアンは驚きと希望の入り混じった表情で、この光景を見つめていた。仲間たちも息を呑んで見守っている。


光の存在は続けた。


「エリーナ・レイヴン、目覚めなさい。あなたの仲間たちが、あなたを待っています」


光が一気に収束し、エリーナの体に吸収されていった。一瞬、辺りを眩い光が包み、視界が遮られた。そして静かに消えていくと、いつのまにか光の存在も消えていた。


静寂が訪れた後、エリーナがゆっくりと目を開いた。彼女の目は、以前よりも深い青色を湛えていた。


「リュシアンさん⋯⋯みんな⋯⋯」


彼女の声は弱々しいが、確かだった。


「エリーナ!」


リュシアンは喜びの声を上げ、彼女を強く抱きしめた。涙が彼の頬を伝った。


仲間たちも歓喜の声を上げ、エリーナの周りに集まった。涙、笑顔、そして安堵の表情が入り混じる中、エリーナはゆっくりと体を起こした。


「私は⋯⋯生きてる」


エリーナは自分の手を見つめ、つぶやいた。その手には、かすかな光の痕跡が残っていた。


「ああ、生きてる」


リュシアンは彼女の手を取り、強く握った。


「そして、これからも一緒に生きていこう」


「はい」


エリーナは微笑みを浮かべ、しっかりと頷いた。そして、彼女は周りを見回し、一人一人の顔を見つめた。


「みんな⋯⋯ありがとう。待っていてくれたんですね」


カイルは照れくさそうに頭を掻きながら言った。


「当たり前だろ。俺たちは仲間なんだからな」


メイリンは涙を拭きながら、エリーナに抱きつき、アリアは小さく微笑んだ。


「エリーナさん、本当に良かった⋯⋯もう二度と、こんな思いはしたくありません」


「あなたの使命はまだ終わっていないようですね。これからも、私たちと一緒に歩んでいきましょう」


ダミアンはただ黙ってうなずいたが、その目には安堵の色が浮かんでいた。


王都に朝日が昇り、新たな日の始まりを告げていた。けれど、広場には、戦いの痕跡が色濃く残っていた。


エリーナは立ち上がり、仲間たちに囲まれながら、歩き出した。彼女の体からは、かすかな光が漏れ出ている。それは希望の光、そして新たな力の証だった。


リュシアンが彼女の隣に立ち、手を握った。

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