4-4 戦闘の準備
新しい仲間と出会ってから互いの能力を理解し、連携を深めるための訓練を重ねてきた。学院の一角に特別な訓練場が設けられ、そこで日々、汗を流している。
ある日の午後、エリーナたちが訓練を終えて休憩していると、リュシアンが急いで駆け込んできた。その表情には緊張が走っていた。
「みんな、緊急事態だ」
「何があったんですか？」
リュシアンの声に、全員が身を乗り出した。リュシアンは深呼吸をして説明を始めた。
「王国の諜報部から連絡があった。グレゴリーが大規模な魔物軍団を召喚し、首都への進軍を開始したらしい」
一瞬、場が静まり返り、それぞれの顔に緊張が走る。アリアが静かに口を開いた。
「どのくらいの規模なのでしょうか」
「詳細はまだ不明だが、これまでの比ではないらしい。数千、下手をすると数万の魔物かもしれない」
カイルが拳を握りしめた。
「くそっ、あいつ、本気で王国を滅ぼす気か」
「落ち着いて。今は冷静に状況を分析し、対策を立てる必要があると思います」
エリーナが皆に呼びかけ、リュシアンが頷いた。
「その通りだ。王国は総力を挙げて迎え撃つ準備をしている。我々も全力で協力する必要がある」
メイリンが不安そうな表情で言った。
「でも、私たちだけで大丈夫なんでしょうか？」
「心配するな。僕が集めた情報によると、王国の各地から魔法使いや戦士たちが集結しているらしい。私たちだけじゃない」
ダミアンがメイリンに優しく声を掛けた。そして、エリーナは皆に向かって話し始めた。
「みんな、これが私たちの真価を問われる時です。これまでの訓練の成果を発揮する時が来たのよ」
「王から直接の命令があった。我々は騎士団と共に最前線で戦うことになる。エリーナの力とみんなの能力を、最大限に活用する必要がある」
「了解です」
全員が声を揃えて答えた。
その後、彼らは作戦会議を始めた。大きな地図を広げ、予想される魔物軍の進路と、それに対する防衛線について議論した。
「私の闇魔法で敵の視界を遮り、混乱させることができます。その隙にカイルさんが突撃するのはどうでしょうか」
「いいね！ 俺の大剣なら、一度に多くの魔物を薙ぎ倒せる」
「私は後方から回復魔法で皆さんをサポートします。できるだけ長く戦える状態を維持します」
「僕は敵陣に潜入して、司令部の位置や戦力配置の情報を集めます。それを元に、的確な攻撃ができるはずです」
エリーナは皆の意見を聞きながら、自分の役割を考えていた。
「私は⋯⋯」
リュシアンが彼女の肩に手を置いた。
「エリーナ、君の魔法は我々の切り札だ。大規模な魔物の群れを一掃できる可能性がある」
「わかりました、私は多くの魔物を倒せるよう最善を尽くします」
作戦会議は夜遅くまで続いた。細部にわたる計画が立てられ、それぞれの役割が明確になった。
大規模な魔物の強襲までは約二週間ほどあった。その間、王国中から物資や兵力が首都に集結した。街の雰囲気は緊張に包まれ、市民たちの間にも不安が広がっていった。
エリーナたちは時折、街に出て市民たちを励ました。彼らの存在が、人々に希望を与えていることは明らかだった。
「あの子たちが私たちを守ってくれるのよ」
「若いのに凄いわね。きっと大丈夫よ」
そんな声が、街のあちこちで聞こえるようになった。
***
ある夜、エリーナは学院の屋上で、夜空を見上げていた。明日から始まる大規模な戦いへの期待と不安が、彼女の心の中で渦巻いていた。
星々が瞬く静寂の中、夜空を見上げているとそこへリュシアンがやってきた。
「エリーナ、ここに居たのか。どうしたんだ？」
リュシアンの声には優しさと心配が混ざっていた。エリーナは微笑んで振り返った。
「明日からの戦いのことです。私たちの力で、本当に勝てるでしょうか」
「必ず勝てる。君の力を、僕は信じている」
「ありがとうございます。リュシアンさんがいてくれて、本当に心強いです」
そう言ったエリーナを、リュシアンは真剣な表情で見つめた。
エリーナを見つめる彼の瞳には何かが揺らめいていた。一瞬ためらうような仕草を見せ、視線を落としたが、すぐに再びエリーナを見つめ直した。
リュシアンは深呼吸をし、静かに口を開いた。
「エリーナ、君に伝えたいことがある」
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