4-5 前夜

彼はエリーナの手をそっと取り、二人の間に静かな緊張が流れた。夜風が二人の髪をそよがせる中、リュシアンは言葉を続けた。


「明日から大きな戦いが始まる。そして、俺たちは命を懸けて戦うことになるだろう」


彼の声には、わずかな震えが混じっていた。


エリーナは息を呑み、リュシアンの言葉に耳を傾けた。自分の心臓が、いつもより速く鼓動しているのを感じた。


「だからこそ、今この瞬間に伝えておきたい」


リュシアンは一瞬言葉を切り、エリーナの目をまっすぐ見つめた。その瞳には、強い決意と深い愛情が宿っていた。


「エリーナ、俺は君を愛している」


その言葉に、エリーナの心臓は大きく跳ねた。彼女の頬が熱くなり、息が止まりそうになった。リュシアンは彼女の反応を見逃さず、優しく続けた。


「君と出会ってから、俺の人生は大きく変わった。君の強さ、優しさ、そして決して諦めない心に、俺は心を奪われてしまった。最初は王子として、王国の騎士として、君を守ることが使命だと思っていた。でも今は違う。君を守りたいのは、王子でも騎士でもなく、一人の男として、愛する人としてなんだ」


エリーナの目に涙が浮かび、静かに頬を伝って落ちた。リュシアンは優しく彼女の頬に触れ、その涙をそっとぬぐった。


「俺は王家の中で特殊な立場にいる。だから、苦労を掛けるかもしれない。けれど、この戦いが終わったら、君と共に新しい人生を歩みたい。君となら、どんな困難も乗り越えられると信じている」


エリーナは言葉を失い、ただリュシアンを見つめ返すことしかできなかった。彼女の中で、様々な感情が渦巻いていた。不安、喜び、そして深い愛情。やがて、彼女は小さな声で答えた。


「リュシアンさん⋯⋯私も⋯⋯私もリュシアンさんのことが好きです」


彼女の声は震えていたが、その言葉には強い思いが込められていた。


「ずっと、あなたの側にいられたらと思っていました。でも、自分にはその資格がないんじゃないかって⋯⋯」


「エリーナ、君には十分すぎるほどの資格がある。むしろ、私の方こそ君に相応しいかどうか⋯⋯」


「そんなことありません! リュシアンさんは私にとって、かけがえのない人です。あなたがいなければ、私は今ここにいません!」


二人の視線が絡み合い、ゆっくりと顔を近づけていった。柔らかな月明かりの下、二人の影が重なった。


そして、二人は互いを見つめ合い、幸せな微笑みを交わした。リュシアンがエリーナを優しく抱きしめ、彼女もその腕の中で安らぎを感じた。


「この戦いが終わったら、君を正式に妻として迎えたい。そして、新しい王国の未来を、共に築いていきたい」


エリーナは頷き、リュシアンの胸に顔をうずめた。


「はい、私もそうしたいです。リュシアンさんと一緒なら、どんな未来でも怖くありません」


二人は長い間、抱き合ったまま星空の下に立っていた。明日からの戦いへの不安は、まだ完全には消えていなかった。しかし、互いの愛を確かめ合ったことで、未来への希望が尽きる事はなかった。

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