4-2 魔物の出現
学院長の一件から数日が経過していた。グレゴリー・クロウフォードの姿は一向に見つからず、王国全体に緊張が走っていた。
エリーナは魔法学院の自室で、不安を抱いたまま窓から広がる夕暮れの景色を眺めていた。突然、空が不自然な暗さに包まれ始めた。
「これは⋯⋯」
エリーナが身構えた瞬間、轟音とともに空が裂け、無数の黒い影が降り注いだ。それは人型をしているものの、どこか歪んだ形をした魔物だった。
警報が鳴り響き、学院全体が騒然となる。エリーナは急いで外に飛び出した。
廊下では学院の調査に当たっていたリュシアンが駆けつけていた。
「エリーナ! 無事か?」
「はい、大丈夫です。でも、あの魔物たちは⋯⋯」
リュシアンは厳しい表情で頷いた。
「間違いない。これはグレゴリーの仕業だろう。彼が禁術を使って召喚したんだ」
二人は急いで中庭に向かった。そこでは既に多くの生徒や教師たちが魔物と戦っていた。
ソフィアが駆け寄ってきた。
「エリーナ! 魔物があまりにも多くて、みんな苦戦しているわ」
「わかったわ。私たちも戦う!」
エリーナは魔法を唱え始めた。彼女の周りに光の粒子が集まり、まばゆい光を放つ。その光は魔物たちを焼き尽くしていく。
リュシアンも剣を抜き、魔物たちに立ち向かう。彼の剣筋は鋭く、次々と魔物を倒していく。しかし、倒しても倒しても新たな魔物が現れる。
エリーナたちの疲労が蓄積されていく中、突如として空に巨大な魔法陣が現れた。
「あれは⋯⋯」
リュシアンが驚きの声を上げる。
魔法陣から現れたのは、巨大な竜のような姿をした魔物だった。その体は漆黒で、目は燃えるような赤色をしていた。
「まさか、これも学院長が⋯⋯」
エリーナの声が震える。巨大魔物は轟音とともに地面に降り立つと、周囲を破壊し始めた。
「こんなの、どうやって倒せばいいの⋯⋯」
ソフィアが絶望的な声で呟く。その時、エリーナの瞳に、紋章が浮かび上がる。
「リュシアンさん、みんな下がって!」
エリーナの声に、周囲の人々が慌てて後退する。彼女は両手を広げ、古代の言葉で呪文を唱え始めた。彼女の瞳が金色に輝き、体が淡い光に包まれていく。
「エリーナ、それは⋯⋯」
リュシアンが驚きの表情を浮かべた。エリーナの手から放たれた光の矢が、巨大魔物に向かって飛んでいく。魔物は苦痛の咆哮を上げるが、なおも抵抗を続ける。
「くっ⋯⋯まだ足りない」
エリーナは額に汗を浮かべながら、さらに力を込める。その時、リュシアンが彼女の隣に立った。
「エリーナ、俺の力を貸そう」
彼が手を差し伸べると、エリーナはそれを握りしめた。二人の魔力が一つになり、さらに強力な光が放たれる。
巨大魔物は光に包まれ、徐々に消滅していく。最後の咆哮とともに、魔物は完全に姿を消した。空の魔法陣も消え、辺りは静寂に包まれた。
エリーナは力を使い果たし、その場にへたり込んだ。リュシアンが彼女を支える。
「大丈夫か?」
「はい⋯⋯なんとか」
エリーナは弱々しく微笑んだ。周囲から歓声が上がる。しかし、一時的な危機は去ったが、グレゴリーは姿を表さなかった。彼が今どこで次の一手を考えているかわからない。
「エリーナ、無理はするな。グレゴリーと戦うには君の力が必要だが、だからと言って君を危険に晒したくない」
「リュシアンさん⋯⋯まだ私、完全に自分の力を理解できていないんです。だから、学院長を止めるためにも、エヴァリストの力を自分のものしないといけません」
リュシアンはエリーナを気づかうようにそっと肩に手をのせた。エリーナはそれに対し、決意に満ちた目でリュシアンを見返した。
周りでは、傷ついた仲間たちの手当てが始まっていた。
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