3-6 サラとの対決
サラ・ベネットを中心とする反エリーナ派は、より露骨な嫌がらせを始めていた。
ある日、エリーナが教室に入ると、机の上に『怪物』と書かれた紙が置かれていた。彼女は深いため息をつきながら、その紙をくしゃりと握りつぶしポケットにしまった。
「大丈夫?」
後ろからソフィアの心配そうな声が聞こえた。
「ええ、慣れたわ」
その時、教室の扉が勢いよく開き、サラが数人の仲間を従えて入ってきた。
「あら、怪物さん。今日も元気そうね」
「エリーナは怪物じゃないわ! ふざけたこと言わないで!」
冷ややかな笑みを浮かべているサラに、ソフィアが激高するように言い返した。エリーナはソフィアの腕をそっと掴むと、首を振り、黙ったまま、自分の席に向かった。しかし、サラはそれを許さなかった。
「ちょっと、無視しないでよ」
サラがエリーナの腕を掴んだ瞬間、強い魔力の波動が走った。サラは驚いて手を離し、数歩後ずさった。
「な、何よこれ⋯⋯」
エリーナも自分の力に驚いていた。彼女の瞳には、かすかに紋章が浮かび上がっていた。その瞬間、教室に緊張が走った。サラは怒りに震えながら、杖を取り出した。
「よくも⋯⋯この私を侮辱して!」
サラの放った魔法がエリーナに向かって飛んでいく。エリーナは反射的に両手を上げ、強力な防御魔法を展開した。
魔法がぶつかり合い、教室中に強い光が満ちた。生徒たちは悲鳴を上げながら、教室の隅に逃げ込む。
混乱の中、突如として別の魔力が介入した。それは、サラの魔法を増幅させるかのような不気味な力だった。
「きゃあっ」
エリーナの防御魔法が押し破られ、彼女は壁に叩きつけられた。
「エリーナ!」
ソフィアが駆け寄る。サラは自分の力に驚きながらも、優越感に浸っていた。
「ふふ⋯⋯これが私の本当の力よ」
しかし、その表情はすぐに不安に変わった。彼女の体から、制御できない魔力が溢れ出し始めたのだ。
「な、何? これ、止まらない⋯⋯」
サラの周りに渦巻く魔力は、次第に暴走し始めた。教室内の物が宙に浮き、あちこちで小さな爆発が起こり始める。エリーナは立ち上がり、瞳の紋章が強く輝き始めている。サラに向かって叫んだ。
「サラ、その力を制御して! 危険よ!」
「うるさい! 私には⋯⋯できる⋯⋯」
サラは歯を食いしばり、必死に魔力を抑えようとしていた。
エリーナは、サラの魔力が制御不能になりつつあることを感じ取った。教室内の状況は刻一刻と悪化し、生徒たちの悲鳴が響き渡る中、エリーナは咄嗟の判断を下した。
「みんな、急いで避難して!」
エリーナは叫び、同時に両手を広げて防御の結界を張り始めた。
ソフィアが率先して他の生徒たちを教室の外へ誘導する中、エリーナはゆっくりとサラに近づいていった。
「サラ、私に任せて。一緒にこの力を抑えましょう」
エリーナは落ち着いた声で語りかけた。サラは恐怖と怒りが入り混じった表情でエリーナを見つめた。
「近づかないで! 私は⋯⋯私は⋯⋯っ!」
その時、教室のドアが勢いよく開き、リュシアンが飛び込んできた。
「エリーナ!大丈夫か?」
「リュシアンさん!」
エリーナは安堵の表情を見せたが、すぐに真剣な面持ちに戻った。
「サラの魔力が暴走しています。手伝ってください!」
リュシアンは状況を素早く把握し、エリーナの傍らに立った。
「分かった。俺たちで何とかしよう」
二人は息を合わせ、サラを中心とした魔力の渦を抑え込もうと試みた。エリーナの瞳の紋章が一層強く輝き、その力が教室全体に広がっていく。
「くっ⋯⋯これは⋯⋯通常の魔力じゃない。何か別の力が混ざっている」
エリーナも同じことを感じていた。サラの魔力の中に、得体の知れない闇の力が渦巻いているのだ。
「サラ、あなたの中にある本来の力を呼び覚まして! その闇の力に飲み込まれないで!」
サラは苦しげに唸りながら、必死に自分の魔力をコントロールしようとしていた。しかし、闇の力は容易に退くことを許さなかった。
突如、教室の窓ガラスが割れ、強烈な風が吹き込んできた。その風と共に、一人の人影が現れた。
「やれやれ、こんなことになるとは思わなかったな」
その声に、エリーナとリュシアンは驚愕の表情を浮かべた。そこに立っていたのは、グレゴリー・クロウフォード学院長だった。
「学院長⋯⋯何故、ここに?」
グレゴリーは冷ややかな笑みを浮かべながら、ゆっくりとサラに近づいていった。サラは混乱した表情でグレゴリーを見つめ返した。
「サラ、お前の役目はここまでだ」
「学院長⋯⋯私⋯⋯私は⋯⋯」
「お前に与えた力を回収させてもらおう」
グレゴリーは手を伸ばし、サラの体から闇の力を引き抜き始めた。サラは悲鳴を上げ、床に崩れ落ちた。エリーナは咄嗟にサラの元に駆け寄り、彼女を支えた。
「なぜです⋯⋯なぜこんなことを?」
エリーナはグレゴリーに問いただした。グレゴリーは冷淡な目でエリーナを見下ろした。
「さぁ⋯⋯お前らにはわかるまい」
グレゴリーはエリーナに向かって手をかざし、魔力を込め始めた。とっさにリュシアンは剣を抜き、グレゴリーに向けた。
「学院長、あなたの行為は許されません。直ちに投降してください」
「私を捕らえようというのか? 笑わせるな」
突如、グレゴリーの周りに強大な魔力が渦巻き始めた。その力は、エリーナがこれまで感じたことのないほど強大で、不気味なものだった。
「エリーナ・レイヴン、お前の持つ力⋯⋯古代の魔法使いの血を引くお前の存在が、この学院の、いや、王国の脅威となる」
グレゴリーは冷酷な目でエリーナを見据えた。
エリーナは立ち上がり、グレゴリーと向き合った。彼女の瞳の紋章が鮮やかに輝き、周囲に強い魔力が漂い始める。
「私の力は、誰かを脅かすためのものではありません。みんなを守るため⋯⋯この学院を、この王国を守るためのものです」
「魔力が封じられたままでいれば良かったものを⋯⋯。そうすれば、何事も起こらず学院も平和なままでいられたのに」
忌々し気に言い放ったグレゴリーの言葉にエリーナは、この学院に入学した日のことを思い出した。
「この学院に来てたら思うように魔力が出せなかったのはあなたのせいだったのですか!?」
グレゴリーにかけられたおまじない、それはエリーナの魔力を封じるものだったのだ。
「どうしてそんなことを!! 学院長! あなたはそんな人ではなかったはずだ!!」
リュシアンと二人、肩を並べ、グレゴリーに立ち向かう姿勢を示した。教室は緊張に包まれ、三つの強大な魔力がぶつかり合おうとしていた。
その時、廊下から急ぎ足の音が聞こえてきた。ソフィアがレオナルドや他の教師たちを連れて戻ってきたのだ。
「エリーナ!」
状況を目の当たりにした教師たちは驚愕の表情を浮かべた。
「学院長⋯⋯これはいったい⋯⋯」
グレゴリーは周囲を見回し、状況が不利になったことを悟った。彼は再び冷笑を浮かべると、
「またな、エリーナ・レイヴン」
と言い残し、強烈な閃光と共に姿を消した。教室に残されたエリーナたちは、まだ信じられない思いでその場に立ち尽くしていた。
リュシアンが深いため息をつき、エリーナの肩に手を置いた。
「ひとまず、無事で良かった」
エリーナは頷き、サラの元に戻った。サラは意識を失っていたが、かすかに呼吸をしていた。
「彼女を医務室に連れて行きましょう」
教師たちが急いでサラを担架に乗せ、医務室へと運び出した。エリーナ、リュシアン、ソフィア、そしてレオナルドは、互いの顔を見合わせた。
「これからどうすればいいのかしら」
「そうだな⋯⋯まずは片付けでもするか?」
教室の惨状を見渡して、肩をすくめるようにレオナルドが言った。
「何故、グレゴリー学院長はこんなことを⋯⋯それにあの力は一体⋯⋯」
一人、リュシアンは沈んだ声で考え込むように呟いていた。
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