3-3 血統の秘密
魔法学院の寮に戻ったエリーナは、窓辺に腰掛け、夜空を見上げていた。義両親との衝撃的な会話が、彼女の心に深く刻まれている。自分が彼らの実子ではないこと、本当の両親の悲劇的な運命、そして自分の中に眠る力について知った今、エリーナの心は複雑な感情で満ちていた。
突然、目に鋭い痛みが走った。エリーナは思わず顔をしかめ、目を閉じた。
「また、この痛み⋯⋯」
最近、彼女はこのような痛みを頻繁に感じるようになっていた。しかし、今回の痛みは特に強烈だった。
痛みが和らぐと、エリーナはふと鏡が視界に入った。寮の小さな化粧台に何か光が反射しているように見えた。エリーナは化粧台に向かい、注意深く観察する。すると、エリーナの瞳にかすかに光る模様が浮かび上がっていた。
「これは⋯⋯」
エリーナは驚いて目を見開いた。確かに、彼女の瞳には複雑な模様が浮かび上がっている。しかし、それはすぐに消えてしまった。
「これが、お母様の言っていた力の証なの？」
驚きと不安が彼女の心を占めた。カタリナの言葉が蘇る。
『あなたの中に眠る力、それはあなたの本当の血筋からのものよ。古代の魔法使いの末裔として』
翌朝、エリーナはリュシアンを訪ねに騎士団に向かった。自分の中の力に不安を感じたエリーナはいてもたってもいられず、リュシアンに相談しに来た。リュシアンは驚いた様子でエリーナを迎え入れた。
「エリーナ、どうしたんだ？ 昨日のことか？」
「ええ、リュシアンさん、聞いてほしいことがあるんです」
エリーナは深呼吸をして、昨夜の出来事をリュシアンに説明した。瞳に現れた模様のこと、そして最近感じている違和感について。リュシアンは真剣な表情で彼女の話を聞いていた。
「エリーナ、その模様のことは⋯⋯」
リュシアンは言葉を選びながら慎重に話し始めた。
「君の血統に関わる重要な証なんだ」
「私の血統⋯⋯古代の魔法使いのですか？」
リュシアンは立ち上がり、部屋の奥にある本棚から古い書物を取り出した。
「以前、君の家を調査しているって話をしたね？ これは、古代の魔法使いたちの歴史を記した本だ。彼らは王国を守護していた魔法使いで、その中に、瞳に光の紋章が現れると描かれている」
彼が開いたページには、エリーナが見た模様とよく似た紋章が描かれていた。その下には、『光の守護者』という言葉が記されていた。
「俺たちが探していた、光の守護者の末裔⋯⋯それが君なんだ、エリーナ。君は確かに古代の強力な魔法使いの血を引いているんだ。君に浮かんだという紋章がその証拠だろう」
エリーナの目に涙が浮かんだ。
「私はどうすればいいんでしょう、この力を⋯⋯。使命なんて、私わからない⋯⋯」
リュシアンは優しく彼女の肩に手を置いた。
「君の好きなようにすればいい。君は、確かにこの国を守る力があるのかもしれない。でも、それは強制されてするべきことではない。君は自由に生きていいんだ」
「⋯⋯そうですね⋯⋯わかりました。この力を正しく使えるよう、頑張りたいと思います。そして⋯⋯自分の過去も、しっかりと受け止めていきます」
「君は⋯⋯なんというか、とても⋯⋯」
決意を固めるエリーナの言葉に、リュシアンは眩しいものを見るように目を細めてエリーナを見つめ、ぽつりと呟いた。
「あぁ、そうだ、まだ続きがある。古代人の使っていた魔法について書かれている書物があるらしい。その書物には魔力が込められており、真に力を解放するためには必要なのだそうだ」
「そうなんですね。でも、どこにあるのかしら⋯⋯」
「こちらでも、引き続き探してみるよ」
リュシアンとの会話で不安が払拭され、すっきりとした気持ちで寮に戻ることができた。
エリーナにとって彼は心の支えであり、彼がいない未来は想像できなかった。もし彼がいなかったら今のエリーナは存在していなかっただろう。
エリーナの中に感謝だけではない気持ちが芽生えていた。
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