3-2 両親の真実
エリーナとリュシアンが部屋を出ようとした瞬間、カタリナの声が響いた。
「待って、エリーナ」
その声には、今までにない切実さがあった。エリーナは足を止め、振り返った。カタリナの目には、涙が光っていた。
「話があるの。あなたの本当の両親のことを」
ロバートが驚いた表情で妻を見た。
「カタリナ、やめろ!!」
しかし、カタリナは夫の言葉を無視し、エリーナに向かって歩み寄った。
「もういい。これ以上、真実を隠し続けるわけにはいかないわ。エリーナ、あなたは⋯⋯私たちの実の子ではないの」
部屋に重い沈黙が落ちた。エリーナの目が大きく見開かれる。
「どういう⋯⋯意味ですか?」
エリーナの声は震えていた。カタリナは深呼吸をし、話し始めた。
「あなたの本当の母は、ロバートの弟の婚約者だった。彼女は⋯⋯古代の魔法使いの血を引いていたの」
ロバートが苛立たしげに割り込んだ。
「カタリナ、黙れ!」
「ロバートは優秀な弟に嫉妬していた。そして⋯⋯」
「そして?」
「彼の弟は死んだ。⋯⋯もしかしたら、ロバートが⋯⋯と私は思っているわ。でも、証拠は何もないの。もしあったとしてももう残ってないと思う⋯⋯」
カタリナの声は震えていた。
「その時、あなたの母はすでに身ごもっていた。あなたを産んだ後、彼女は亡くなった」
エリーナは言葉を失った。リュシアンが彼女の肩に手を置き、支えた。
「なぜ⋯⋯なぜ今まで黙っていたんですか?」
エリーナの声は怒りに満ちていた。カタリナは顔を伏せた。
「ロバートは、あなたの母親に執着していた。弟に対する劣等感からか、彼女を手に入れようと画策していたわ。私は、それが許せなかったの⋯⋯」
ロバートは激しい怒りの表情を浮かべていた。
「黙れ、カタリナ! これ以上話すな!」
しかし、カタリナは夫を無視し、エリーナに向かって歩み寄った。
「あなたを疎ましく思っていた。でも⋯⋯どんなに冷たくあしらっても慕ってくるあなたを愛おしく思うこともあった。でも、あの女の顔がちらついて⋯⋯ごめんなさい、エリーナ。あなたを苦しめてしまって⋯⋯本当にごめんなさい」
エリーナは動揺を隠せなかった。彼女の中で、怒り、悲しみ、そして混乱が渦巻いていた。
「家族なのに、どうして私だけあんな扱いを受けるのかっていつも思ってました。そもそもが違ったんですね。私は家族じゃなかった⋯⋯」
「私たちは家族になれなかった。けれどあなたの中に眠る力、それはあなたの本当の血筋からのものよ。古代の魔法使いの末裔として」
エリーナは自分の手を見つめた。今まで感じていた不思議な力の源が、ようやく理解できた気がした。
「エリーナ、どうする?」
彼女は深く息を吐き、両親⋯⋯いや、育ての親たちを見つめた。
「私は⋯⋯自分の道を歩みます。あなたたちのしたことを許すことはできません。でも、真実を話してくれたことには感謝します」
エリーナは部屋を後にしようとした。しかし、カタリナの声が再び彼女を呼び止めた。
「エリーナ、あなたの力には大きな意味があると思うの。あなたには果たすべき使命があるかもしれない」
エリーナは立ち止まり、カタリナを見つめた。
「使命⋯⋯ですか?」
カタリナはうなずいた。
「詳しいことは私にもわからないわ。でも、アリアナは⋯⋯あなたの母親はいつか蘇る偉大なる魔法使いのために自分の血を伝えなければならないと言っていた。あなたの力が目覚めたのには、きっと理由があるはず」
エリーナは黙ってカタリナの言葉を聞いていた。そして、昔を懐かしむように遠くを見つめるようにしてカタリナは呟く。
「アリアナとは⋯⋯昔は親友だったのよ。ロバートとのことがあるまでは本当に仲の良い、姉妹のような関係だったの⋯⋯」
エリーナは決意を固めたように顔を上げた。
「わかりました。私の力の意味を、自分で見つけ出します」
リュシアンがエリーナの横に立ち、静かに頷いた。
「最後に、両親の名前を教えてください」
「あなたの父親はウィリアム・レイヴン、母親は⋯⋯アリアナ・エヴェリストよ」
エリーナは最後に部屋を見渡した。ロバートは苛立たし気に部屋の中を歩き回っており、カタリナはただこちらを見つめ涙を流していた。
「さようなら」
エリーナが両親との決別を静かに告げた。
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