第3章 再会と真実
3-1 家族との再会
エリーナは緊張した面持ちで、レイヴン家の屋敷の前に立っていた。背後にはリュシアンが静かに控えている。彼女は深呼吸をし、自分を落ち着かせようとした。
「大丈夫か、エリーナ」
リュシアンが優しく尋ねられるとエリーナは小さく頷いた。
「ええ、大丈夫です。ただ⋯⋯こんなに早く家族と再会することになるとは思っていませんでした」
魔法学院での成功、サラとの対立、そして黒幕の存在を突き止めようとする中で、エリーナの評判は王国中に広まっていった。才能ある若き魔法使いとして、彼女の名は注目の的だった。
そして、その名声は彼女を冷遇し続けてきた実家にも届いたのだ。
「覚えておけ、君はもう、奴らに左右される存在じゃない。君には力がある。そして、俺たちがいる」
エリーナは感謝の眼差しをリュシアンに向けた。彼の存在が、どれほど彼女に勇気を与えてくれているか、言葉では表せないほどだった。
深呼吸を一つして、エリーナは門を叩いた。
しばらくして、見覚えのある使用人が門を開けた。彼女の目が驚きで大きく見開かれる。
「エ、エリーナ様⋯⋯!」
「お久しぶりです。父上と母上にお会いしたいのですが」
使用人は慌てて頷き、二人を中へ案内した。
屋敷の中は、エリーナが記憶していた通りだった。豪華な調度品、重厚な絵画、そして冷たい雰囲気。しかし今、彼女はこの場所に怯えることはなかった。
応接室に案内された二人を、ロバートとカタリナが待っていた。だが、いつもエリーナが対峙していた二人とは違う表情を浮かべている。
ロバートは媚びを売るような薄ら笑いを浮かべ、カタリナに関してはいつもの冷たい顔ではなくどこか思いつめるような表情を浮かべていた。
「エリーナ、よく来てくれた」
その声にも、かつての冷淡さは感じられなかった。むしろ、どこか取り入るような響きがあった。
「お呼びがあったので」
エリーナは淡々と答えた。カタリナは黙ったまま、娘を見つめていた。その目には、何か言いたげな思いが宿っているように見えた。
「噂は本当のようだな。お前が魔法学院で頭角を現しているというのは」
「はい。多くの方々のご支援のおかげです」
彼女の言葉に、リュシアンがわずかに微笑んだ。
「それで、なぜ私を呼び戻したのですか?」
ロバートとカタリナは顔を見合わせた。そこには何かを躊躇するような雰囲気があった。
「実はな、エリーナ」
ロバートが言葉を選びながら話し始めた。
「我が家は今、大きな危機に直面している」
「危機、ですか?」
「ああ、最近の政変で、我が家の立場が危うくなっている。お前の力を借りなければ、家族全員が没落しかねないのだ」
エリーナは父の言葉を静かに聞いていた。かつての彼女なら、この訴えに簡単に応じていただろう。家族のために尽くしたい、認められたいという思いに駆られて。
しかし、今の彼女は違った。
「つまり、私を利用したいということですね」
「利用というのは言い過ぎだ。これはお前にとっても良いことだ。家族として再び迎え入れ⋯⋯」
「家族?」
エリーナの声に、かすかな怒りが混じる。
「私をずっと冷遇し、使用人同然に扱ってきたあなたたちが、今さら家族だと?」
カタリナは静かに黙り込んだままエリーナを見ていた。
「十分です。私はもう、あなたたちに振り回されるつもりはありません」
「エリーナ! 我々はお前の両親だぞ!」
「血のつながりがあるだけです。私にとって、家族とはもっと大切なものです」
エリーナの言葉を聞き、激高して立ち上がっていたロバートは、思い直すようにソファに座りなおした。そして、怒りを消し、代わりに計算高い表情を浮かべた。
「そうか⋯⋯では、お前にとって大切な者たちのために、協力してもらおうか」
「どういう意味ですか?」
「お前、学院で親しい友人ができたそうだな? そして⋯⋯」
ロバートはリュシアンを見た。
「お前が糾弾されたとき、彼がかばったそうじゃないか。もし、我が家が没落すれば、お前の評判にも傷がつく。そうしたら、お前の周りの者たちにも影響が及ぶんじゃないか?」
「⋯⋯脅迫ですか?」
「違う。現実的な話をしているんだ」
エリーナは言葉を失った。家族の冷遇には慣れていた。しかし、こんな脅迫めいたことを言ってくるのは予想外だった。
リュシアンがエリーナを庇うように一歩前に出た。
「エリーナを脅すのは⋯⋯」
「リュシアンさん。大丈夫です」
エリーナは両親を見つめた。その目には、何の感情も宿っていなかった。彼女は両親を見つめ、深呼吸をした。
「私には自分の人生があります。あなたたちの都合で振り回されるつもりはありません」
「エリーナ!!」
「十分です。私には守るべき人たち、大切な仲間がいます。私や彼らの評判は私が自分で守ります」
エリーナは立ち上がった。
「もう貴方たちと話すことはありません。⋯⋯もう私に関わらないでください」
リュシアンがエリーナの肩に手を置き、彼女は力強さを感じた。
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