2-11 エリーナの成長

魔法学院の図書館、人気のない一角でエリーナは深い息をついた。周りを見回すと、レオナルドとソフィアが心配そうに彼女を見つめている。


「大丈夫?」


ソフィアが優しく尋ねるとエリーナは小さく頷いて応えた。


「ええ⋯⋯ただ、ここ最近のことを考えると、まるで夢のよう」


確かに、エリーナにとってこの数か月は、まさに激動の日々だった。魔法学院への入学、サラとの確執、そして陰謀に巻き込まれるなど、彼女の人生は大きく変化していた。


「そうだな。俺たちも、まさかこんなことになるとは思わなかった」


レオナルドが腕を組んで言い、その言葉にエリーナは懐かしむように目を細めた。


魔法学院に入学した当初、彼女は自分の才能に自信が持てずにいた。貧しい貴族の家で冷遇され続けてきた彼女にとって、学院での生活は新たな挑戦だった。


しかし、リュシアンの推薦もあり、エリーナは必死に努力を重ねた。

そして、その努力が実を結び、徐々に自分の魔法の才能が開花していくのを感じていった。


「覚えてる? あなたが初めて実技試験で、みんなを驚かせたとき」


「ええ。あの時は私も驚いたわ。自分の中にそんな力があったなんて。あの日、急に魔法が自在に操れるようになったの。どうしてかしら⋯⋯」


腑に落ちない点を感じつつも、放校の危機を乗り越えたエリーナは安堵の息を吐いた。


「サラの仕掛けた罠は、本当に厄介だったな」


レオナルドの言葉にエリーナは静かに頷いた。


サラたちの陰謀により、彼女は禁断の魔法を使用しているという噂を立てられ、学院中で孤立しかけた。しかし、ソフィアとレオナルドの助けを得て、エリーナはその危機を乗り越えたのだ。


「あなたたちがいてくれて本当に良かった」


エリーナはソフィアとレオナルドを交互に見つめ、心から感謝を込めて言った。


「実は言ってなかったことがあるんだ⋯⋯騎士団に人脈があるって言っていただろ? 実は、僕はリュシオン様の部下なんだ。部下というか、将来部下になる予定というか⋯⋯。最初は、リュシオン様に言われて君に近づいたんだ」


エリーナの瞳が大きく見開かれた。


「そう、なの?」


その声には驚きはあったものの、怒りは感じられなかった。エリーナは深呼吸をし、ゆっくりと頷いた。


「リュシオンさんの指示だったのね⋯⋯」


彼女は少し考え込むように目を伏せたが、すぐに優しい笑みを浮かべてレオナルドを見つめ直した。エリーナは軽く肩をすくめ、少し照れくさそうに続けた。


「それに、あなたの誠実さは嘘じゃないでしょう? 私たちの関係は、最初はそうだったかもしれないけど⋯⋯今は違うわ。そう信じていいかしら?」


彼女の声には、許しと理解が滲んでいた。エリーナはレオナルドを温かな目で見つめた。

エリーナの言葉に、レオナルドは安堵の表情を浮かべた。彼は真剣な眼差しでエリーナを見つめ返し、静かに頷いた。


「ああ、もちろんだ。君たちとの関係は、今では僕にとってかけがえのないものになっている」


ソフィアは二人の様子を見守りながら、小さく微笑んだ。


「でも、まだ謎は残っているわね。エリーナの魔力が急に強くなったこと、サラに協力してた貴族とか⋯⋯」


「そうね。まだ分からないことだらけだわ」


レオナルドは腕を組み、真剣な表情で言った。


「リュシオン様も引き続き調査してくれている。僕たちも出来る限り協力しよう」


「ええ、そうね」


三人は互いを見つめ、固く決意を共有した。図書館の静寂の中、彼らの絆はより深まっていった。

エリーナは立ち上がり、窓の外を見つめた。夕暮れの空が魔法学院の塔を美しく染めている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る