第17話 俺らしさ

ボールを床にたたきつけながら考える。何をするか。いや、違うな。何ができるかだ。いつもならやってやると胸を張るところだがこの体力では力を籠めすぎると当たり所がおかしくなってホームランになる。どうするか、入れるサーブをするしかないか?それなら、ネットを超えるくらいで…

覚悟を決めたとき、ネコの声が聞こえてきた。


「あの状態のワンちゃんは最強だかんね。聖クンにも負けないよ!」


笑顔とともに声を大きくしたネコは蓮と小競り合いを始めた


「は、はは。俺が最強か。そうか、そう…だな」


そうだ。何弱気になってんだ


ボールをたたきつける力を強くする


俺がここにいる理由はなんだ。慎重さか?確実性か?


ボールをたたきつける力を強くする


違うだろ!俺は犬塚剛だ、壁なんて、障害なんて力で突破する!


ボールをたたきつける力を強くする


それを極めてるから選ばれてんだ!弱気になるなよ、俺!どうせ総合力なら不動の一番がいる。でもパワーだけは負けないって決めたんだぞ!馬鹿野郎!!


たたきつけたボールが俺の頭を超える高さまではねた。ボールが落ちてくる頃、笛が鳴る


「いま、俺がすべきことは…!全っ力でぶったたく!ただ、それだけだあぁぁ!」


声で気合を入れて飛び上がる。全力でたたくからコントロールなんてできない。だから俺が狙うのは中央!


体育館の床にボールが落ちる。犬塚のパワーがすべて乗ったそのボールは床を揺らし跳ね上がったボールは観客席に届いた


「よっしゃー!」


「すっごーい!ワンチャーン!」


犬塚は両手を抱えてから開くように広げるとその間にネコが飛び込んできた。フラフラなアシではそれを支えきれずに倒れそうになる。すんでのところで聖が間に合い床に激突することはなかった


うれしさのあまり怪我をする可能性があった二人は顔を少し青くする一方、聖の脳内では先ほどの犬塚の振り絞ったサーブがループされていた。記憶でジッと観察しながら生まれた疑問をふいに声に出す


「ねぇ、なんで?」


「…な、なにが?」


急に口を開いて疑問をぶつけてくる聖に思い当たる節がなかったので聞き返す犬塚。聞き返されたことで自分が脳内から直接話していたことを察し少し目をそらしながら質問の続きを話す


「えっと、さっき剛すっごく疲れてたじゃん?だからてっきり入れるサーブでも打って僕の判断に任せてくるかなって思ったから…」


眼をそらしながら時々止まりながら話す聖に対して笑いをこらえつつ返答をするために口を開いた


「フッふぅー。最初はな、入れるサーブにしようかと思ったんだが…」


話を途中でやめて自分に抱き着いているネコをちらっと見てから聖に視線を戻す


「こいつが言った言葉で俺の土俵を思い出したからな。入れるサーブは俺じゃねぇってなった」


笑いながら剛は続ける


「それに、入れるサーブに逃げた俺にお前はトスあげねぇだろ。俺のそれはただのエサだし」


「ふふ、よくわかってんじゃん。よし、もう一本頼むね。ネコ帰るよ」


「はいはーい。ここまでいい調子だからって気を抜かないでね!」


そのまま二人はコートに戻り、俺の手には蓮から投げられたボールがそこにいた。ボールにだけ聞こえるように小さくつぶやく


「んなこたわかってる。もう一本」


俺で終わらせるくらいの気持ちで…!


そう挑んだ一本は当たり所が悪く大きな、大きな放物線を描いて観客席の前にあるフェンスに当たる。自陣コートも相手コートもそのすべてが沈黙。数秒後聖の大きな笑い声とネコの叫びが聞こえてきた


「あーはっはっはっふぅ~あははは!なんで、そんな、飛ぶ、の」


「油断しないでって言ったじゃん!!ねぇ!!そういうところがあるからみんなお前のことをエースって呼べないんだよ!!」


と言いながらばか!ばか!と俺のことを軽い力でたたきまくってきた


「いやほんとになんでだろうな。ここ大事なとこなのに」


「冷静になるなよ!!もう!さっさとコート戻って!後あのボール取りに行ってよ!」


「え!?おれぇ!?」


当たり前でしょ!と俺の手を引っ張りながら怒ってきた。あの…一応スパイカーの腕なんですけど…このままじゃ肩取れるんですけど…あ、無理っすか。…俺が悪い?ほんとにすんません

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