望まれた神様

第16話 狂犬の足音

相手が打った瞬間に動く、ボールは僕が抜けたところに滑り込んできてネコもうまく飛び込めず少し低めのトスになる。ネコにしては珍しいとそちらに視線を向けると足が少し震えていた。どうやら限界は近いらしい。だがそれは他の人も一緒。みな震える足をごまかして動いている。その中一際大きな声を上げて走りこんでくるものがいた

「聖！！」

そう、剛だ。僕らの時間稼ぎである程度まで体力が回復したらしい。それに今ネコが崩れた。犬猫コンビは片方が崩れたらもう片方が燃え上がる。ジュニアから有名な話だ。踏みしめる足が体育館を揺らしているかのような錯覚を受ける

ボールを上げる。今の剛なら少し高めでも大丈夫だろう

飛んでいるボールを見ながら踏み込んだ。力を入れている足に血管が浮き上がる。今、飛び上がった！

「ははっまじか」

僕があげたボールは剛の手首付近に当たりまっすぐ飛んでいく。そのままエンドラインでバウンドした。カメラはイン。こちらの得点だ

ネコが飛び跳ねながら剛に抱きつく。その勢いが強すぎて剛が転びかけたのはご愛敬ってやつだね。さっきまで震えていた足は少しマシになったようだ。だけど少し心配なので智にアイコンタクトを送る。智はそれを受け取って飲み物を用意し、黄金がアイシングを用意してくれたみたいだ

次のサーブは今ノっている剛、願わくば剛で終わらせてほしいけど、元気になったとはいえさすがにそこまで体力が残っているとは思えない。二点取ってくれれば御の字かなさーてどこに飛ばすんだろうか。さっきのトスがあってなかったし自分でも今どのくらい飛べるのかわからないんだろう。足を少しマッサージしている。しかしその目は足ではなく相手コートの身を見ていた。数秒揉んだあと立ち上がりボールを構える。その力強い表情に心配は消え去り、期待に代わる

笛が鳴る。ネコや蓮は周りに声をかけていたけどいつも騒いでいる剛は静かに炎を燃やしていた

ボールはまっすぐ中央のところに飛んでいく。弾速はおそらくこの試合最速だろう。ジャンプも高くなっているし疲れすぎててボールの制御が聞かないようだ

「頼む！」

「え！？」

ボールの左右にいた人たちが譲り合う。リベロさんは少し前方へいたこともあり中央に飛んでいるボールを任せたんだろう。もう一人はアタッカーだし早めに助走を入れたかったんだろう。こちら側は僕のサーブっていう休憩があったけど、向こう側はずっと翻弄され続けてたしタイムアウトもない。疲れてたんだろうな。とりあえず一点。二人は間を詰めることにしたみたいだ。まぁ剛はこの状態じゃなくてもコントロール聞かない力任せのサーブになるだろうし正しい判断だろう

「もう一本…もう一本…」

普段の声量では考えられないほど小さな声でつぶやいている。僕の横を通り過ぎるときにしか聞こえず後ろを振り返ったらなぜか僕の方を見ていた。だから何か後ろにあるのだろうかと相手コートみると僕の後ろはさっきボールが落ちた地点だったからきっと同じところに入れるという意味だろう

もう一度剛を見ると肩を揺らしながら相手コートを睨み見つけていた

「気合はいってんね」

ボソッとつぶやいた本心にネコが笑って答える

「あの状態のワンちゃんは最強だかんね。聖クンにも負けないよ！」

「そんなわけないだろう」

「はぁ？なんかいった？」

「聖の方が…」

「はいはいケンカ禁止～！そろそろ始まるよ」

二人の間に入って会話を止める。ネコの背を押して位置に戻し蓮のことは肩をなでで落ち着かせる。まったく疲れてて限界に近いのに何でケンカできるかな…余計体力使うのにさぁ

このケンカで集中が途切れたかと思ったけど大丈夫だったみたい。剛はまたブツブツつぶやいていた