第14話 己との戦い
白髪に照明の光が反射してキラキラ光る。輝くその人はボールを手で遊ばせながらネット越しに植木高校を見つめる。同じコートから観察している人には目もくれず、ただただどこに落とすのが一番勝利に近づけるのかと考え続けているようだ
だが、今回の聖は手遊びを急にやめ、腹をさすりだした
「…おなかすいちゃった」
静かな体育館だからか遠くからでもはっきりと聞こえた。そうつぶやいた後ボールをしっかりと両手でつかみ構えた。ボールの行く末は…エンドラインスレスレのインコースで一点。とうとう一点差になった。聖の顔はどんどん険しくなっていく
「悪いけど気が変わっちゃった。分析とかどうでもいいやもう12時になる」
ボールを構えて前を向いた。笛の音とともに飛び上がった。放たれたボールは今度はサイドラインスレスレに飛んだ。もう一点、二連続サービスエース。それもラインギリギリのもの。これで月天は追いついた。この調子なら相手に一点も渡さずにサーブのみで押し切れるだろう。エンドラインでボールを遊ばせている聖には鬼気迫るものがあった。そんな聖に誰も近づけず、そのままサーブに移ってしまいそうなとき、聖に近づくものが一人いた。普段の聖からは信じられないほどの気迫がある聖におびえることなく近づいていく。聖に心酔している彼だからこそ言えることがあるのだろうか
「聖、腹が減って機嫌が悪いにしてもやり過ぎだ。このままだと第一セットのように…楽しくないバレーになるぞ?」
「でも、もう死にそう…」
「グミとかもってきてないのか?」
「うん…」
「そう、か」
蓮は眉間にしわを寄せてしばらくうつむいた後、勢いよく顔を上げて聖を笑顔で見る。そして大きく笑いかける
「腹が減っているなら仕方ないな!思い切りやれ!」
「いやそこは止めるところだろ!何後押ししてんだ」
コート内から剛の大声が飛んでくる。その横で首を振りながら剛の肩に手を置くネコ
「ワンちゃん、蓮クンは絶対“聖の空腹が限界なんだから仕方ない”とか言ってくるよ」
「よくわかったな」
「ポジション柄よく見てるんで~」
やいやいと話していたが、途中で大から声をかけられた。少し焦っているのかおびえているのか震えている声だった
「み、みんな、そろそろサーブ始めないと…」
と、審判の方をちらっと見ながら話す。そちらを見てみると腕時計を気にしながらこちらを見ていた、そろそろ警告が来てしまうだろう。いいタイミングで止めてくれた大には感謝しかない
「そうだね、ずいぶん待たせちゃったや、ありがとう大」
「…どういたしまして!」
大は小さく笑ってから定位置につく。他のメンバーも自分の場所に戻り相手コートを向いている。蓮は相変わらず聖を見つめているが
「まっずい、本当に倒れるかも…」
聖の体には空腹を知らせる虫の声が響き渡っていた
あとがき
二日更新で頑張ってきましたけど、三日更新に変更します
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