第13話 一点の重み

一旦深呼吸をはさみ精神統一。試合の終盤ということと追い込まれているという緊張感で震える体を抑え込む。植木コートも絶対に欲しい一点、聖の一挙一動から目を離さないように集中している。それは月天コートも同じ、たかが一点されど一点。体育館全体に緊張が走る。第一セットのように聖のワンマンプレーで勝ちに来るのか、それとも植木がつなげるか

その中、爛々とした笑顔で聖を見つめるものが一人。戦況や相手チームなど気にもせずただいつも通りに聖だけを見る


「あと十点、さぁどうする。お前が点を狙うなら俺もその通りに」


笛が響く。聖はボールを高く上げ、飛び立った。お手本のようなフォームでボールをたたきつける


選抜の時は聖が本気を出すことはほとんどなかった、サーブに絞れば尚更だ。ずっとネット越しにしか見れなかった絶景を目に焼き付ける。聖のサーブが途切れたら、俺が活躍しないといけない。聖が俺に頼んだのだからかなえたい


聖のスパイクサーブは相手のアウトサイドヒッターにあたり、はじかれた。そのボールを追いかけるが間に合わず一点。これで16対19。これでこちらが逆転勝利したら相手の士気は立て直すことができないところまで落ちる。そうなったら、おそらく次の試合にも影響するだろう。だから俺がすることは一つ一つのプレーを丁寧にこなすことのみ


聖は植木から笑顔でボールを受け取りエンドラインまで走る。その表情は太陽にも負けぬ輝きを放っていた。だが長い間聖を観察していた蓮は知っていた。その笑顔は月天がリードされているから表れていることを。リードされているからすべてを使って追い抜かなければならない、という気持ちからこの状況の聖はボールへの執着が強い。落とさないし外さない。その厳しさで己を追い込んで楽しむ。中三の時敵なしだった聖が編み出した楽しみ方だ


聖は笑顔のままサーブの態勢に入った。ボールを手で遊ばせながらコートを眺めていた。植木選手をジッと見つめながらブツブツと何かをつぶやいていた。その目はうつろで笑顔なのにどこか不気味な雰囲気が漂っていた。笛が鳴ったら素早く二歩下がり飛び上がる。美しいフォームから放たれたボールは緩く、そしてふらふらと揺れながら落ちる。そのボールに滑り込みボールが上がった。笛はならない、つまり落ちてないということだ。無理な体制で滑り込んだからかレシーブは真上に飛んだ。ネット際に立つセッターは間に合わないため、根津が二段トスで味方につなげる。ライトは後ろから飛んでくるトスにピッタリと合わせてスパイクを打つ。そのボールは二枚のブロックをくぐり抜けてまっすぐ蓮の方に飛んでいった


まっすぐ飛んでくるボールに構える。あの人よりは遅い。一つ一つを丁寧に、必ずつなげる。基礎を教わった時のように足を出す動きすらも意識して動く。俺は聖のように感覚のみで完璧にはできない。俺にできることは反復練習を積み重ね、普通に近づけるだけだ。


蓮の腕に当たったボールは緩やかな曲線を描きながら聖に向かって進んでいく


「…よし」


「ナイスレシーブ!」


聖は素早く下に潜り込み、相手コートを一瞥したのちこちらを見た。それが俺を見ているのか他の奴を見ているのかはわからないがいつ来てもいいように三歩下がっておく


聖は丁寧にボールをつなげた。聖の手から離れたボールはバックセンター、それも俺の普段の高さだ。俺はそれをしっかりと打ち抜き一点。飛び跳ねながら喜ぶ聖に俺もうれしくなる。聖はトスも素晴らしい、やっぱり何でもできるな聖は


植木からボールを受け取り今度は歩きながらエンドラインまで進んでいった

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