第12話 新たな試み

智のミスが続くが、改善点が見つかったのかブロックに読まれることが減り、三枚ブロックも減ってきた。だがさすがに三年生、二枚ブロックでも硬い。隙間がないブロックだ。それでも高さは同等以下。乱れたレシーブを体制を崩しながらも智がこっちに送ってくれたんだ、打ち抜かなきゃ僕らしくない!相手のブロックごと吹き飛ばしてボールを通す。リベロさんが触るけど弾いて床に落ちる。これで14対19。僕のサーブだけどこのままだと先に20点に行かれてしまう。智は10点あたりから調子を取り戻してきたがそこまでにさんざん頭を使ったからか汗が尋常じゃないほど流れている。そういえば智のチームは、一個下にも優秀なセッターがいたから、智がメインで疲れたら二年の子をだす。そうやって戦っていたのを思い出した。だからこそこんなに濃度の濃い戦いを一人で乗り切るのは初めてかもしれない。大が智に近づきタオルで汗を拭いている。智の眼は相手コートを見ているようで見ていないような、焦点が合っていない気がする。流石にまずいと思って僕は高木さんの方に走ってタイムアウトを申請した。メンバー全員にぎょっとした顔で見られるが素知らぬ顔で高木さんの返事を待つ


「わかりました。月天タイムアウトです!」


と、手でTの形を作りながら声を出す


「ありがとう!じゃあみんな、集まって!一回休憩しよう」


ベンチに座りドリンクを一口飲んでから周りを見る。剛は相変わらずバテ気味だけど、試合は続けられるだろう。蓮たちも特に問題がないな。智は…ベンチに座り込んで薄めたスポドリを飲んでいる。足が少し震えているな…しょうがないか


「智、悪いけどこのセットはベンチだね。ネコ、ビブス脱いで智と変わってくれない?」


「待ってください!私はまだ!」


と立ち上がるが、足は震えている。やっぱり無理そう


「無理だよ。今の智じゃ。今休めば第二試合、全力で戦えるでしょ?いったんここで疲労を抜いて次の試合で活躍してよ。智なら休憩しながら作戦立てるなんて余裕でしょ?疲れてるのは体の方で頭は動くもんね?」


僕の言葉に智は少し固まってから急に立ち上がりタブレットとバインダーを取り出す


「わかりました。データは私の武器の一つですから」


そう言ってバインダーとタブレットを見比べながらデータを整理し始めた


「智クンが抜けるとなると僕がセッターやるってこと?」


「いや、どうせなら絶対にやらないことをやろう。僕がセッターだ!!」


手を挙げながら大声で宣言する。そうすると体育館にいる全員が目を見開いて驚きの声を上げた


「はぁ!?うっそだろ、え?」


「聖がセッター!?つまり聖のトスが打てるということか!」


「蓮と同じ反応をしたくないが貴重な経験だな」


「それじゃあ僕と黄金君がずっとコート内にいるってこと?」


「そんで僕がレシーバーかぁ~」


「そうそう!それから~、僕は一番点取れそうな人にトスあげるから頑張って飛んで?考えるなんて面倒だし」


「わかった。飛び続ければいいんだな」


「体壊さない程度でね~あとMB陣のレシーブカバー入ってね。この作戦上ネコがずっと後ろにいるわけじゃないからさ」


その言葉にMB達、とくに大がわかりやすく固まる。大は中学からバレーを初めて、MBしかやったことないと二年選抜で戦った後言っていた。中学からなのに二年から選抜に招待されるんだと感心したな~


高木さんが笛を鳴らす。高木さんにメンバーチェンジを申請してからメンバーを変える。目指せ20点!だね


根津さんが目を丸くしながら口をあんぐり開けているのを笑いながら見下ろす。さっきの宣言を聞いていたんじゃないの?高木さんにボールをもらってからサーブの用意をするボールを掌で遊ばせながら相手コートのどこに入れるか考えようか


第一候補はリベロさんと根津さん以外を狙って点を取りに行く。でも智にデータ収集をしてといっている以上僕のトスを見せたほうがいいかな。よしそうしよう!

狙う場所を決めたら、二歩下がってからサーブを打つ。特に回転もかけてない、でも無回転ではないとりやすいサーブをリベロに向かって打つ


「ブロックしっかり―」


ネコがAパスでこっちに返してくる。相手コートと自陣コートを交互に見ながら誰にあげるか決める。みんな助走はしっかりとれるようにしていて正直迷う。けど、相手コートは僕への警戒を強めているからレフトにあげようか。蓮がすごい気迫でこちらを見つめてきているから蓮にあげようかな

僕の方に飛んできたボールを蓮の方にするどいトスで渡す。蓮がタイミングを合わせられるか不安だったけど案外うまくいくもんだな

蓮は僕のトスにピッタリとミートさせた。誰もいないところへ打ち込んだがリベロが滑り込んであげた。体制は完全に崩れてるし、滑り込んだ先に一人アタッカーがいるためその人も動けない。攻撃先は絞られたってわけだ。今までの植木高校はこういう時に根津さんを選びがち。僕はインコースを守ってるけどこのローテはブロックが二枚しかいないから蓮が少しこっち側によって来てくれてる。ネットスレスレとかじゃない限り蓮に任せようかな。根津さんのスパイクは大の指先に当たり大きく後ろにはねた


「ワンチ!!」


その瞬間ネコが走り出したからそれを信じて定位置へ行く。蓮もついて行ったし最悪僕が打ち込む。ネコは追いついて大きくボールを戻す。このボールは…エンドラインから三歩くらいネット側に歩いたくらいに落ちるな。ここだったら二段トスで行けそうだ。さて誰にあげようかな、と考えていると後ろから声が聞こえた


「聖!俺がやる!」


止まる気のない走りでカバーから戻ってくる蓮。この“やる”は、スパイクを打つかトスを上げるか。蓮の顔を見るに後者だろう。あの鋭い目と不気味な笑みは僕のスパイクを見てる時によくあらわれる。あの子は一番好きなのはブロックだとよく語っていた。その理由は僕のスパイクが真正面から見えるからだと。蓮はスピードを崩さず走ってくる、あの様子ならこのボールにも余裕で間に合うことができるだろう


「…しょうがないなぁ」


僕は落下地点から離れバックセンターに立つ。蓮は走りながら飛んでボールを迎える。空中でセンターにトスを上げた。ブロックは蓮の声から察したのかブロックがついている。アタックラインから飛んでも届くくらいの位置。でもちょっと無茶しないといけないかもな~前に飛び過ぎてネットタッチしないように気を付けないと。アタックラインを踏まないのは当たり前!


打ち込んだボールはブロックの横を通りセッターがあげた。前に着地しそのままセッターの定位置に立つ。それにしても今回のローテ長いな。植木側も早く20点に到達してメンタルを安定させたいんだろう。こっちも点を渡したくないから必死なんだけど


相手は茶色のメッシュが入った人を選択。あの人は確かパワー型アタッカーだったはず。背番号もないし名前も知らんから特徴で覚えるしかないのムズイな…茶メッシュはパワさん。おけ

あの人だったらこっち飛んでこないだろ


レフトから爆音とともに蓮とネコの間に飛んでいった。


「俺がやる!!」


ネコも反応するけど蓮の大きな声に動きが止められていた。そういえば次は取るとか言ってたな。第二試合で機会はなかったけど見てはいたみたいだね。今回でリベンジ達成かな。僕のところに飛んできてる


「クソ、Bだ」


「え?あれとって自責タイム入るの?蓮クンやば」


パワーで来られたしパワーで返すか。剛は疲労の問題でこのセットスパイク数が少ないからそろそろフラストレーションが爆発するころだし、その力をすべてぶつけて見せて!


「おっらぁ!」


パワさんの音と同じく大きな音とそれに勝る大声とともにボールがコート内に落ちる。ブロックも追いついていたけれど、ブロックをもろともせずボールをたたきこんだ


「おっしゃあ!どーだみたかネコ!」


「やることなすこと全部うるさいよ!でもいいスパイクじゃん!」


「だろ!!」


剛にネコが駆け寄って背中をたたいて称賛していた。それを眺めていると目の前に蓮が現れた


「聖、見てたか」


「うん、リベンジ達成じゃん」


「あげることはできたが次はもっときれいにレシーブを見せる」


「そ、期待してるね」


向上心が止まることを知らない蓮はこぶしを握り締めて目に炎を宿していた。この子表情は動かないけど目にすべてが詰まってるから結構わかりやすいんだよな


「聖、もう一本ナイッサー」


「は~い」


ボールを受け取って掌で遊ばせる。手に吸い付くように動くボールを見ているとこのボールに愛されてるって感じする。愛されてるから力をもらえるんだ。ほら、僕が相手コートを見つめた瞬間に相手の動きが硬くなってる


「僕のサーブで四点ほしいな」


トスは何回か上げたし、智はタブレットとにらめっこしてる。目標は僕が後衛のうちに20点に行くことかな


「さーて何点取れるかな~」


唇を舌で湿らしてから小さく笑う。第二セットはおとなしくしてたし、ちょっと遊びたくなっちゃった。第一セットの時、僕だけでやるバレーは楽しくないって言ったけど…


「勝てないのも楽しくない…よね!」


笛が鳴る。顔を上げるとみんなが前を見る中、蓮だけはこっちをジッと見つめていた


「大丈夫。勝たせるよ」


ごはん前に勝ち星は欲しいよね!勝たせるよ、僕だもん!


あとがき

一試合が長すぎる気がするけど省略できない苦しみ

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