第11話 焦りと苛立ち

第三セットなのでもう一度コイントスをする…が、負けちゃった。どうやら今日の僕は運がないみたいだ。相手は同じローテで戦うようだ。体力が消耗している僕らとは違い、息の乱れはあるが動きが落ちる程ではない。こちらは智と剛が疲弊している。智は、さっきの試合、トスが読まれていたから焦りのせいで体力が削られていたんだろう。でも、もう落ち着いているみたいだね。剛はさっきの試合で調子の乗らない智やフォーメーションをミスる黄金と蓮のカバーをしていた。そこで思うより疲れたんだろう。休憩をはさんだ今でも息が切れている。ただその辺はネコがうまくカバーしてくれるだろう。サーブレシーブ、このローテは後衛に剛がいるからおそらく、剛を狙ってくるだろう。だから僕は少し後ろで剛のカバーができるように構えておく


「聖、いらねぇ、俺は取れるぞ」


「ワンちゃん!見栄張らないで!聖くんありがとう」


「ネコ!」


「レシーブで体力使うよりも、スパイクして!わかった?わかったら配置につく!はやく!」


「お、おう」


剛に拒まれたりしたがネコが剛を押していった。その気迫に剛は負けたようだ。まぁこの中で一番体力が残っているのは僕だから僕がカバーするのは当然当然


サーブが飛んでくる。そのボールはネコが拾い蓮にあげられた。智のトスは乱れのないトスだった。だがブロックがピッタリとついてきており、根津さんは初めから蓮の前にいた。どうやら何か気づいていない癖でもあるのだろうか

とりあえず蓮とハイタッチをしてから智の方を見る。智は服で額の汗を拭きながら相手コートを睨んでいた。声をかけようとすると蓮に肩をつかまれた


「蓮?」


後ろを振り向くと蓮は静かに首を振ってからエンドラインまで歩いて行った。口だすなってこと?もう一度智の方を見ると目が合って思わず驚いてしまった


「どうかしました?」


「い、いや、何でもないよ。トスうまくいくといいね」


「ああ、…そうですね」


なぜかまた沈んでしまった智をどうフォローしようかわからなくて蓮の方を振り向く。蓮は僕の方を見た後頭を抱えてから首を振ったのでおそらくあとは何とかしてくれるだろう、きっと

後ろから大きなため息が聞こえた気がするが気のせいだろう。それに僕悪くないし!多分…


蓮は大きく深呼吸をした後、祈るようにボールを持った。さっきの試合ミスが目立ったからかな?


蓮のボールは鋭いカーブを描いて相手のアウトサイドヒッターに向かっていく、無理矢理体に当てて体制を崩したので攻撃に参加できるメンバーが減った。蓮らしい技だな。根津さんは助走を確保していてセッターは少しライトよりなのでセンタークイックはなし。ライトにいるミドルブロッカーは…この二試合でのスパイク数は8。決定率も低いのでネコと蓮に任せる。このローテは後衛のレシーブ力が一番高いしブロックはコースを絞るだけでいい。下手に飛ばすと逆にまずい。つまり僕が警戒すべきはレフトとセンター。根津さん八割かな!


セッターが選んだのは…レフト


「ストレート締めるよ~せーのっ!」


僕の手に当たり大きく上に上がる。エンドライン付近まで飛ぶがネコならきれいに返すだろう。僕がやるべきはライトで助走距離を確保して待つこと、根津さんはセッターを見ずにこちらに注意を向けているので、智はこっちには持ってこないだろうな。蓮もバックに入れるようにポジショニングしてるし黄金か蓮に渡すだろう、あ、こっちに飛んできた


「…相手余裕で三枚だな…」


まぁ智は僕のこと信じてくれただけだろう。僕は打ち抜くだけですよ~。相手コートをしっかり見て穴をつく。誰にも触れられることなくコート内に落ちて一点


智は呆然とした顔でブロッカーを見つめていた。また読まれた。というか智の動きが鈍ってるな。蓮が首を振っていたけれど流石に一言言おうかな。そう思って近づいたら蓮が先に声をかけていた


「おい、少し冷静になれ。相手コートも見れずに何やってるんだ」


「私は十分冷静ですよ」


「その割には、聖しか見ていなかったようだが」


沈んでいる智に向かってかなり詰めていた。このせいでトスが乱れたら困るんだけど…その時はそこで解散して蓮はサーブしに行ったんだけど。智はまだ沈んでた。大丈夫かな…蓮の方をちらっと見ても蓮は首を振るだけだった


そのあと、蓮が二連続サービスエースして、智のトスが読まれて黄金のスパイクが止められたところでサーブ権は終わった。また沈んでいる智に蓮は近づいて言った。


「本当に何しているんだお前、聖に迷惑かけるなよ。これはリベンジマッチなんだぞ、第二セットもこんな調子で落としたんだぞ」


「わかってます。すぐに修正します。だから…」


「一度冷静になれ。いつもの動きを思い出せばいいだけだ」


「私は貴方とは違うんですよ。一度陥ったら何が悪いかもわからない」


そういった後、智は頭を抱えながら智が小さくつぶやいた


「やはり、感覚型の方が上手くいくようですね。彼のようにはなれない」


「お前が提案したことなんだからやり遂げろ、それにあいつは聖にはあげないだろう」


「それは、わかってますよ!勝てないから、勝てるわけないから悔しいんです」


どんどん声が大きくなっていって、蓮の顔も険しくなっていって、智は沈んでいっている。このままいったらパフォーマンスが落ちるな。それにチームメイトが楽しんでいないバレーは詰まんないって知ってるからね


「ねぇ、そのくらいにして?智、もし苦しかったら僕に頼りな?絶対に決めるから」


「聖様…」


「蓮、このローテさっさと切るよ、そうすれば黄金のサーブが始まるからね」


「わかっている」


「よし、ならこの話は終わり!一回円陣組もうか。みんな~集まって~大もおいで」


全員でライン際に集まる。大も入れて円陣を組む


「みんな………」


「聖?どうした」


…どうしよう、活を入れるつもりで集めたはいいものの何も言うことがない


「え~と、その、僕が、引っ張るからみんなバレー楽しもうね~」


「なんか力が抜けてんな」


「月天ファイオー!とかないの」


「いいね、それ!行くよ~!月天―ファイッ!」


オー!!!


配置につく前に智に近づいて背中をなでる


「安心して智。僕がいるからね。それに崩れたとしても策はある。だから、一つだけアドバイス」


「…アドバイス?」


「うん、今の智は視野が狭いみたいだ。智の強みを活かす戦い方。思い出そう」


「視野が狭い…」


顎に手を置いて考え込む智から目を話し蓮に近づいて小声で言う


「ほら、みてみて、高圧的に言うよりも効果あるんだよ」


「はぁ、わかったわかった。ほら、位置に戻れ」


とはいえ、智は理論派だ。違和感を見つけるのは早いだろうが、修正に時間がかかるだろう。そこは僕と蓮で埋めないといけない。フェイク混ぜて頑張りますか


「さーてまだ四点差!このままリードしていくよ~」


レシーブ姿勢をとり笛の音を待つ。早めに修正してくれるとありがたいんだけど



あとがき

ウイングスパイカーからアウトサイドヒッターの表記にしました。十話までのを修正するかはわかりません


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