第10話 願う者と叶える方

疲れ果てているみんなを眺める。みな、中学では断トツトップだとしても、高校では全国出るか出ないか、そこまでしか行けない。そのレベルが高校の中堅に当たり、拮抗した実力のせいで試合が長引いて体力を使い果たしていた。もっとも第二セットの敗北は体力のせいではない。この少人数で勝ち抜いていくには今の倍以上のスタミナが必要だな。そして、交渉をしている智を見る。何か行動をしないと落ち着かないと、相手チームまで走っていった


僕が突発的に思いついた作戦だったからみんな混乱したのかな。でも新鮮味があって楽しかった。第一セットよりは点を取られたけど僕のワンマンではなくなった。みんなを勝たせるためにも僕は体を壊してはいけない

汗を拭いていると蓮に話しかけられた


「そういえば、あの作戦は何で思いついたんだ?」


「え?」


「碌な説明もなしに急に話したじゃないか、ただ聞きたいだけなんだ」


そうだったか?みんなに話したときはなんて言ってたっけ?たしか…


第一セットが終わった瞬間に、ホワイトボードを手に取り、集合をかける


「みんな、聞いてほしいんだけど、次のセット、フォーメーションを変えたい、いい?」


動きまくった後だからか息が上がった状態で話す。急かすような口調に蓮が少し笑いながら答えた


「もちろん、聖のためのチームだ、好きにしろ」


「えっと、みんなもいいね?じゃあまず、蓮と黄金、ポジション交代しよう。黄金は経験あるよね」


「あるにはあるが…いや、やってみよう」


最初は渋っていたけれど目を合わせたら頷いてくれた。その返事を聞いてすぐにホワイトボード上の黄金都連の位置を入れ替える


「ん、ありがとう。このセットは今のローテからいっこ動かした形にして、黄金のサーブが…いやいいか。このまま、二人を入れ替えたままにしよう。智、行けるよね」


「…もちろん、ですが黄金さん。少しだけクイックの練習に付き合っていただきませんか」


「いいだろう。蓮はいいのか?」


「蓮さんは大丈夫でしょう…」


「そうか。…大!君も参加しないか?一人だけは疲れる。ボールわたしも交代しながら行おう」


「あ、いいの?智君は…」


「参加してくれるのならありがたいです。ありがとうございます」


そう言って三人はコートに走っていった。その間、ネコと剛はレシーブについて話し合っていて、僕らは時間ぎりぎりまで蓮にやってほしいことを話し合っていた。このチームの軸は、僕と蓮だ。僕たちが崩れないようにしないといけない。だからこそ、自らの身を削るような戦い方は控えるように、75%を常に維持することを目標に第二セットに挑んだ。そういえば作戦のことばかりでどうして思いついたのかとかは全然話してなかったな


「たしかに、話してなかったね。僕がこの作戦を思いついた理由はもったいないなって思ったからだよ」


「もったいない?」


「うん。黄金と比べると蓮の方がコートにいてほしいからね。レシーブもスパイクも蓮のがうまい。だから…」


僕の話を遮るように黄金が突然立ち上がった


「大、対人付き合ってくれ」


「っあ、わかった」


コートにかけていく二人を少し黙って見つめる。さっきも練習してたし、公営の時は出ていないとはいえ疲れているはずなんだけど


「いいね、二人とも練習熱心で!あ、僕らはダメだよ?オーバーワークになる」


「はぁ、わかっている。聖、あまり人のいる前で人を貶すな」


「貶す~?いつ僕がそんなことを?僕は黄金の悪口を言ったつもりはないよ。事実じゃないか!」


「聖!」


僕が蓮に対して文句を言っていると、蓮が僕の肩をつかんだ。目の前で大きな声で名前を呼ばれて肩を震わせる。顔の真横をボールがかすめたときより驚いた


「人間とは、事実に傷つくこともあるんだ。口に出す前に一度考えてから話そう」


「難しいよそれ。そんなの一度も言われたことない」


「そうだな、難しい、でもやらないと」


「それに、本当のことを言ってなんで怒られないといけないの?」


「…それが人間にとっての善悪の境目だからだ。人を思う気持ち。善となるか悪となるか、人に好かれるか嫌われるか。そこの気遣いができるだけで、神様として好かれるか、化け物として嫌われるかが決まるんだ」


「…そっか」


「化け物は嫌だろう?」


「…神様か、化け物か、ね。蓮は?」


「俺?俺は人間だが」


「蓮は僕に何を望む?」


「俺は………」


黄金と大の練習している音、ネコと剛の談笑。智が先ほどの試合を再生している音。さっきまで気にもしていなかった音が頭に響く。蓮の答えは


「初めて出会ったときから聖は俺の神様だよ」


初めて見る蓮史上最高の笑顔でそういった


「たとえ世界がお前のことを化け物だといっても、俺はお前のことを化け物だといわないよ」


「そっか。そうか。僕は神様か。じゃあ勝たないとね」


「聖?どうした?体調でも…」


高木さんから第三セットを開始すると声がかかる。黄金と大は軽く汗を拭いてからエンドラインに走っていった


「蓮、行こう。僕ならできるよ。そうだろう?」


「そうだな。お前なら…」


「蓮さん、聖様。このセットは満遍なく散らします。何か改善してほしいところがあれば、早めに教えてください」


後ろからの智の声に笑顔で了承しエンドラインに並ぶ。さて第三セット。スタートだ



選手情報メモ


根津 小次郎 《ネヅ コジロウ》

17歳 178cm 右利き

ポジションはOP。チームメイトに合わせるプレーを好む

茶髪の短髪、黒目で前髪を上げている。


有名校から声をかけられていたが、中学で出会ったメンバーを全国に連れていきたいと同じ高校に進学した

県大会では最高成績三位とギリギリ全国出場している

最高打点が低いことをテクニックでカバーしている。チームメイトの穴を埋めるためにほかの技術も極めていたらどのポジションでもできるようになった



あとがき

第二セットはどこかで反省会として出す予定です。思いついてないともいう

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