第9話 ご機嫌取り
聖からボールを投げられるがつかめなかった。聖に謝ってから一度大きく息を吸って吐く。そして床で数回バウンドしているボールを胸の位置まで上げてもう一度深呼吸をする。さっきサーブはは聖の雰囲気にのまれてうまくミートできなかった。力が変な方向に入って、ラインギリギリになった。その瞬間聖の機嫌が一段階悪くなった気がする。深呼吸してもまだ手は少し震えてる。武者震いって強がれたらよかったんだがなぁ。ネコが駆け寄ってきて背中をたたかれた
「ワンちゃん、大丈夫?どっか痛いの?」
「行ける。ちょっとミスって…ビビってるだけだ」
「あぁ聖くんか。なら結果を出すしかないね。僕もチャンスボールの時ジッと、見つめられたもん。トスの時とか特に…」
「……」
「頑張って、ワンちゃん。ミスしたとしても次の評価で巻き返せばいいよ。だから」
「…ミスしていいなんてお前が言う日が来るとはな」
「僕はリベロだからね。点を取られることの方が嫌いだ。でもお前はアタッカーでしょ?」
高木さんから早く準備してと、急かされる。ネコが後ろを振り向いて大きく返事をした
「とりあえず攻めなよ。安心して、後ろには僕がいる」
そう言ってコートに戻っていくネコ。少し居心地が悪くて頭を掻いて時間をつぶす
「…サンキュー平八。元気出たわ」
コースとか、相手の穴とかどうでもいい。全部真ん中!俺のパワーなら振り切れば、勝てる!
覚悟を決めて前を向いた時、聖が笑った気がした
笛が鳴る。深呼吸もなしで飛ぶ。意識することはただ一つ、相手コートにたたきつける!ただそれだけ
「馬鹿は馬鹿なりに…だね、剛」
「うっせーぞ平八」
もう一度、笛が鳴る。聖の方をちらりと見てみると聖は俺の方を見つめていた
「ナイス、剛。もう一度」
先ほどまでの重い雰囲気は消え去り、こちらに笑顔を向ける聖。その様子に溜飲が下がる。正直あのまま第二セットまで行かれたら困る。ただでさえこの部活に入ることを強要した身なんだ。飽きられて離れられるとまずい。聖は一度決めたことは曲げない男ってのは知っているが…まぁいい。こういう面倒なのは智とかの専門だ。俺は馬鹿なりに…聖の言うとおりに
「このまま、俺が終わらせる!」
「お~気合はいってんね、ワンちゃん。力が入り過ぎないといいけど」
笛が鳴った後すぐに打つ。そのボールはエンドラインを大きく超えてアウトになった。ネット超えた瞬間にわかったのかネコに突撃された
「もー!だからワンちゃんは調子に乗るとすぐこうなんだから!!!」
「これに関しては俺がわりぃわ。なんでこうなんだか」
「ワンちゃんが脳筋過ぎるのがよくないんだよ!!馬鹿!」
「悪かったって!殴るな!!」
「もー!」
ベンチでは蓮が体を動かし始めていた。相手サーバーは知らない奴。このローテはネコが定位置にいるので俺はサイドラインにくる球を意識していれば大丈夫だ。一本で切ってさっさと回す
このローテはネコが拾って、智がセットして、聖が打つという理想形で終わらせた。次のローテは蓮が戻ってくる。蓮が戻ってきたら蓮に対して笑顔で話しかけそのまま相談事をしていた
「蓮、言ってたことできた?」
「ああとりあえず、WSの位置取りと視線の動きは見た」
「おーけー、じゃあ次のセット頼むね」
「なにかは知らんが分かった。任せろ」
「ふふ、信じてるよ。じゃあ、さっさと終わらせようか。正直少しいじりたいことがあるからね」
「そうか、じゃあ、対聖想定で戦おう」
「何か違うの?」
「集中して相手の動きを見る。疲れるが、ほぼ100%正面に入れる」
「ふーん、確かに戦うときに急に反応が良くなってた時があったね」
「覚えているんだな」
「蓮はね、選抜でもあったし、県大会もよく戦ったしそれに、一番楽しかったからね」
「…そうか」
「そうよ~このローテで終わらすくらいの気持ちでいこう」
蓮とグータッチをしてから前を向く。大のサーブがネットを通ったのを確認しながらライトに急ぐ。相手は少し乱れる形になったため、セッター以外が根津さんにセットした。それを阻む蓮。今までの数倍は素早い動きでブロックに入ってきた蓮に当たって相手コートに落ちる。溜息をついたあとすぐに定位置に戻った
「大丈夫?」
「あぁ久し振りに集中したせいで思ったより疲れた。だが慣れなければいけないものだ」
「OK、試練だと思っているのなら乗り越えな」
このセットはこのまま、蓮が止め、かえって来たら聖が打ちと相手に主導権を握らせずに終わった
次のセットが始まる前に十分の休憩を設けることにしたため、ホワイトボード片手に計画を説明する
その作戦を組んだ第二セット、思わぬミスが続き、19対25で負けた
「まぁ及第点、よく戦ったよ。次は勝てるよね?」
「わかってる、ふぅ相手チームには悪いが休憩時間を延ばしてもらおう」
蓮の言葉に耳を傾けながら、他のメンバーの様子を見る。智は相手チームに休憩時間の調整の件で話をしていた。それ以外は床に座り込み、ドリンクを飲んでいる
「すこし、無茶しすぎたかな」
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