第7話 笑顔と威嚇


根津さんのサーブを受ける可能性を少しでも増やしたいから守備位置を1歩下げようとするとネコに背を押さてしまった


「じゃま〜聖くんはスパイクの準備しててよ、後ろは僕がいるのー」


「でも…」


「でもじゃない!僕のレシーブになんか文句あるんですかァー?」


「い、いや文句はないんだけど…」


「聖、駄々をこねるな」


ベンチから蓮にお叱りを受けた。水分補給をして軽く体を動かしながら苦笑いをこちらにうけたまま


「駄々じゃないもん」


「はぁ、高木さん。無視していいですよ」


「ちょっと!僕の好きなこと何でもやらせてくれるんじゃないの?あれは嘘?」


「嘘じゃないが、割り切らなくてはいけないこともあるということだ。というかよく覚えていたな。中二の時じゃないか」


「君が選抜の会場で突然僕の前に立ちふさがってきたからね。よく覚えているよ」


「あれは本当にバカだったころで…いいから早く位置につけ!まだ試合はあるんだ、次もあるだろ」


「ふふ、はーい」


蓮はいつもあまり動かない顔を赤くしていた。微笑みながら眺めていたらタオルで顔を隠されたが。さて、おそらくこのローテ、根津さんのサーブをレシーブすることはできないだろうけど、間近で感じるとどんなサーブになるのか楽しみだ


口角が上がるのを感じる。根津さんは僕の顔を見た後、目を見開いてからこちらを睨んできた。気合十分ってことだね!



聖のほほえみから隠れるようにタオルで顔を隠す。軽く笑った後、視線を俺から変えたようなのでその先を確認する。聖が見つめるのは根津 小次郎。彼は聖と目が合った後、少しおびえるようなそぶりをしてから聖に対して威嚇していた。普段は心優しいと有名な彼がそんなことをするのは、おそらく聖の表情が原因だろう。あいつは中学のころから本気で戦うとき口角を限界まで上げてから好敵手を大きな瞳でジッと見つめる。見つめられた側は己の行動すべてを審査されている気分になる


あの目で見つめられながら普段通りの結果は出せるのか、根津 小次郎のサーブ。狙うは黄金。まぁライトには猫田と聖がそろっているから黄金しか選択肢がないだろう。少し乱れる形とはなったが助走距離も十分確保できる高さ。智はライトにセット。聖は右手でスパイクし、ブロックを無理矢理避けるように体を回しながら打ったためクロス、それもサイドラインぎりぎりに叩き込んだ。判定はもちろんイン。相手の強力なサーブを一本で切ったのはかなり大きい。それにここのローテは聖がサーブを打つ


現在の点差は10対5。聖はエンドラインから4歩歩き、その場で5回軽く飛ぶ。そして相手コートの全員の顔を見つめてからボールを掌で遊ばせて待つ。笛が鳴ってから二秒後にボールを高く上にあげてから右でたたく。そのボールはリベロに向かって飛んでいく。リベロは聖のボールの勢いを殺しきれず、こちらにチャンスボールで帰ってきた。そこに食いつく駄犬が一人。横から走ってきて無理矢理ダイレクトでスパイクを決めたからか、着地がうまくいかず軽くよろける形となってしまった。犬塚 剛。パワーも売りだが嗅覚にも定評がある。スパイクが打てそうならどこでも打つ。その精神は見習うべきかもしれない。さて、聖のサーブ。今度は4歩下がるのみでその場飛びはせず、ボールを遊ばせていた。次はどんなサーブが見れるんだろうか。聖は本番で力を発揮するタイプだから、サーブ練習では確認を済ませた後は遊んでいることも多い。さぁ、審判の笛が鳴った

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